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有給休暇義務化の抜け道はNG!適切に対応する秘策
2019年4月から、労働基準法の改正により有給休暇の取得が義務化されました。年に10日以上の有給休暇が付与されている労働者には、必ず5日取得させなければいけません(労働基準法第39条7)。けれども、この改正に対して、労働者でなく、会社側が有利になる抜け道を探そうとする会社もあります。
確かに従業員の数が少ない中小企業にとって、有給休暇の義務化は大きな負担です。しかし、結論を先に申し上げますと、殆どの場合そういった抜け道探しは法の趣旨に反し、適切な労務管理の観点からリスクも大きい。何より、従業員が有給休暇を取得しやすい環境づくりが大切になってきます。
今回は、こうした陥りやすい間違いに注意をしながら、有給休暇取得の義務化について説明いたします。
全ての企業は条件に合致する従業員に対して、年に5日間の有給休暇を取得させることを義務付けられています。義務に違反した際には違反者一人に対して~30万円の罰金を課せられます。違反者が100名いれば罰金は~3,000万円となります。しかし、このリスクはきっちり対策すれば、事前にリスクを回避することが可能です。本紙では有給休暇の取得義務について解説し、そのリスクと対応策をお伝えします。
目次
有給休暇取得の義務化とは?
有給休暇取得義務化の概要
そもそも有給休暇取得義務化とは、働き方改革関連法により、全ての企業を対象に導入された「年間10日以上の有給休暇が与えられる全ての労働者に対して、年次休暇を付与した日から一年以内に最低でも5日間は取得させなくてはならない」ルールを指します。
有給休暇を年5日取得できなければ、労働基準法の第39条7に反することになり、同法の第120条により、労働者1人につき30万円以下の罰金が科せられます。100人該当すれば3,000万円です。
これにより企業担当者は従業員一人一人の就業管理をしなければならず、法改正への対応に悪戦苦闘している企業も少なくないのではないでしょうか?
しかし、それ故にこの法改正に間違った方向性で対応を検討してしまう例もあり、注意が必要です。
有給休暇義務化の法改正の内容や対応方法について詳しく知りたい方は別記事「有給休暇の基準日がわかる!確実に年5日の有給休暇を取らせる3つの方法」も合わせてご覧ください。
有給休暇取得義務化の対象
有休取得義務化の対象は年間10日以上の有給休暇が与えられる全ての労働者であり、決して正社員に限らない点に注意が必要です。
具体的に義務化の対象となるのは以下の4パターンです。
・入社後6ヶ月が経過している正社員、またはフルタイムの契約社員
・入社後6ヶ月が経過している週30時間以上勤務のパートタイマー
・入社後3年半以上経過している週4日出勤のパートタイマー
・入社後5年半以上経過している週3日出勤のパートタイマー
こちらについては下記の記事でより詳しく説明しています。
なお、出勤日数が週に2日以下のパートタイマーに対して10日以上の有給休暇が付与されることはないため、彼らが義務の対象となることはありません。
有給休暇義務化の対象について詳しく知りたい方は別記事「有給休暇の5日取得義務化とは?概要や罰則について分かりやすく解説」も合わせてご覧ください。
有給休暇取得が義務化した背景
有給休暇の取得が義務つけられた目的は、より働きやすい社会の実現です。その背景には日本の有給休暇取得率の低さが挙げられます。
政府は有給休暇の取得率を70%とすることを目標として掲げていますが、令和2年に厚生労働省が実施した調査において有給休暇取得率は以下のような水準でした。
企業規模 | 労働者1人平均付与日数 | 労働者1人平均取得日数 | 労働者1人平均取得率 |
1,000人以上 | 18.9 | 11.9 | 63.1 |
300人~999人 | 17.9 | 9.5 | 53.1 |
100~299人 | 17.6 | 9.2 | 52.3 |
30~99人 | 17.0 | 8.7 | 51.1 |
企業規模が小さくなるに連れて有給休暇の取得率も低下しており、目標とする70%には程遠い数値となっています。
このような状況も踏まえ、有給休暇の取得が推進されております。
有給休暇を取得することで従業員はリフレッシュできますが、企業側からしても従業員の生産性向上が期待できます。有給休暇を取得しやすいように制度を整えていくことが重要です。
間違ってはいけない!有給休暇取得義務化への対応とは?
有給休暇取得義務の概要や背景について理解したところで、続いてその対応方法を見ていきましょう。
結論から言うと実態を伴わないその場しのぎの対応は、脱法行為となるリスクがあるため注意が必要です。
・週休2日の会社で、月に1~2日を平日に変え、有給休暇を取得させて休ませる
・夏休みや年末年始など特別休暇の一部を労働日に変えて、有給を取得させる
・有給休暇が10日以上に付与される前に契約を終了し、一定の空白期間を設けてから再契約して勤務の継続をリセットする
これらの、形式だけを変えて実態を伴わない方法は、今回の法改正をかいくぐることだけを目的として、それ以外に合理性のない、法改正の目的や労働法の精神を無視した脱法行為として否定されるリスクが非常に高まります。
これらの方法がなぜ問題なのか、もう少し詳しく見てみましょう。
有給休暇を5日取得する義務を果たすために、休みや特別休暇を平日に変えるのは、労働者にとって休日が減少するという不利益変更にあたります。就業規則を変更しなければいけないため、労働者と個別に話し合って同意してもらわなければいけません。
たとえ同意を得られたとしても、本来の趣旨である「有給休暇の取得促進」に反するもので、労働基準監督署から指導を受ける可能性はあります。
また、企業側の行った就業規則の不利益変更に対して、労働者が裁判を起こしその変更に合理性が無いと判断されると、変更そのものが無効です。その結果、5日取得の義務が果たされてないことになるため、罰則を受ける可能性があるのです。
なにより、このような脱法的な手段を進めることで、従業員のモチベーションの低下や会社への不審に繋がり、長期的に見ると生産性の低下や離職に発展するかもしれません。
トラブルが表面立たなかったとしても、会社のスタンスが疑われ、労働者の意欲低下は避けられません。なんとか抜け道を探そうとするのではなく、有給義務化の目的を忘れずに、積極的で柔軟な対応をすることが求められているといえます。
有給休暇の買取制度やその価格・取り扱いなどについて詳しく知りたい方は別記事「有給の買取は原則NG!例外で認められるケースとそのルールを解説」も合わせてご覧ください。
有給休暇義務化に企業側はどう対応すべき?
有給休暇義務化への対応として形式的な就業規則の変更など、抜け道を検討することはリスクの方が大きいので避けたいということがわかりました。
では、企業側はどのように動くことが求められているのでしょうか?
まずおさえておきたいのが、有給休暇付与日を基準として、1年以内に5日は必ず有給休暇を取得させなければならない義務が発生することです。
法改正前までは、有給休暇の取得方法は以下の2つでした。
・労働者による時季指定方式
・計画年休制度方式
計画年休制度については次項で詳しく解説していますが、労働者による時季指定方式では基本的に労働者本人に有給休暇の取得時季をまかせます。
しかしながら、それだけでは5日の取得を達成できない場合もありえます。
その為、上記の2つの方式に加えて新たに追加された方式があります。
それが、今回の法改正で新たに追加された「使用者による時季指定」方式です。
使用者が労働者に対して、時季を指定して有給休暇を取得させる方法です。
但し、この方式による場合は、必ず、労働者から意見を聴いて、なるべく希望に添うように努めなければなりません。
この「使用者による時季指定」方式は、有給休暇の取得が難しい社員がいた場合は、会社側が柔軟に取得日を指定できるメリットがある反面、個別で管理する必要があるため管理者の負担が大きくなるというデメリットがあります。
いずれの方法を取るにしても企業側に求められるのは、この「5日取得義務」を守りつつ、有給休暇を社員に上手く消化させることだといえるでしょう。
5日の有給休暇取得義務化についてもっと詳しく知りたい方は別記事「5日の有給休暇取得義務化へ対応!夏季休暇を有給に充てられる?」も合わせてご覧ください。
従業員に有給休暇を上手く消化してもらう方法は?
では、抜け道を使わずに有給休暇を消化させるには、どうすればいいのでしょうか。従業員へ有給休暇の取得を促す、3つのポイントをご紹介いたします。
計画的付与制度で有休を消化させる
有給休暇は、会社と労働組合(または労働者の代表)が労使協定を結べば、個々の労働者が保有している有給休暇の内5日を超える分に対して会社が計画的に付与できます。例えば年に20日付与されている労働者であれば、15日が計画的付与の対象です。残る5日は労働者が自由に取得できるようにしなければいけません。
計画的付与によって、年5日取得の義務を果たせるのはもちろん、誰がいつ休むのか事前に把握できるようになり、事業の見通しを立てやすくなります。
いつ取得させるかは労使協議で決めることになりますが、飛び石連休の埋め合わせに使ったり、夏季休暇の前後に使ったりすれば、連続した長期休暇にすることが可能です。会社や事業所全体で休むときも有効活用できるでしょう。
年次有給休暇管理簿を作成する
有給休暇管理簿とは、年次有給休暇の取得状況を正確に把握するために、「基準日」「付与日数」「取得日数」「残日数」「取得時季」等の必要事項を記載する管理簿のことを指します。
労働基準法施行規則第24条の7では、企業が年次有給休暇管理簿を作成し、期間中はもちろん、期間後も3年間は保存するよう義務付けています。
年次有給休暇管理簿の作成によって正確な管理を行い、有給休暇を効率的に取得してもらうためのツールとして生かしましょう。
労働実態を把握し、有休を取得しやすい環境を作る
確実に年5日有給休暇を取得してもらうには、労働実態の把握が欠かせません。取得しやすい環境や雰囲気か、取得を妨げる要素はないか、確認しましょう。問題があれば、業務の効率化を図ったり、有給休暇の取得は当然の権利であると考えをあらためてもらったりするなどして、改善します。
ただし、労働者や部署の数が多くなるほど、人事労務担当者だけで実態を把握するのは困難です。そこで、勤怠管理システムを導入して、有給休暇の取得実績から実態を把握しましょう。もし期限の間近になっても取得が進まないようであれば、直接本人に促したり、上司に聞き取りを実施できます。
ミナジンの勤怠管理システム「MINAGINE勤怠管理」は、人事労務のプロフェッショナルが開発に携わっており、コンプライアンスに強いのが特徴です。画面上から申請・承認ができるため、手間や時間をかけず、簡単に有給休暇を取得できます。有給休暇の日数や付与日、有効期限の把握も難しくありません。
有給休暇の残日数はレポート形式で確認できるようになっており、取得が進んでいなければ一目で分かるようになっています。該当する労働者が画面を開いたときに、アラートを表示させることも可能です。これらの機能によって、年5日の取得を達成しやすくなるでしょう。
労働実態を簡単に把握できる?勤怠管理システムサービスを解説
労働実態の把握や作業の効率化を目指すにあたって、勤怠管理システムの導入は非常に効果的です。主に以下3つのようなメリットが考えられます。
・長時間労働や残業の管理
・不正打刻の防止
・コスト削減
一方で勤怠管理システムのサービス内容にも会社によって違いがあるため、最も自社の条件にぴったりなシステムを比較・検討する必要があります。
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ここで無料で使えるのなら有料版を選ぶメリットは無いのでは無いか、とお考えになるかもしれませんが、従業員数が多い場合や拡張機能を利用したい場合には、有料版がおすすめです。管理データが多くても安心・安全で、サポートつきであればよりスムーズな運用が期待できるためです。
全ての企業は条件に合致する従業員に対して、年に5日間の有給休暇を取得させることを義務付けられています。義務に違反した際には違反者一人に対して~30万円の罰金を課せられます。違反者が100名いれば罰金は~3,000万円となります。しかし、このリスクはきっちり対策すれば、事前にリスクを回避することが可能です。本紙では有給休暇の取得義務について解説し、そのリスクと対応策をお伝えします。
まとめ
有給休暇の5日取得を実現する抜け道の多くは法律に抵触する恐れがあり、労働者にとっては不利益になるため、指導の対象になる場合があります。計画的付与制度や勤怠管理システムを導入して、従業員が有給休暇を確実に取得できる環境づくりをすることが大事です。
社会保険労務士法人ミナジン 代表社員
髙橋 昌一
特定社会保険労務士。1967年東京都世田谷区生まれ。1990年早稲田大学商学部卒業後、約14年間の総合商社での勤務を経て、2004年社会保険労務士試験合格。以来、約15年間にわたり社会保険労務士として、特に労使間トラブルの解決に尽力する。2019年4月より社会保険労務士法人ミナジン代表社員就任。
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