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リファラル採用手当とは
リファラル採用とは、自社の従業員が知人・友人・元同僚などを採用候補として会社に紹介し、採用に至った場合にインセンティブを受け取る採用手法です。採用エージェントへの支払いが不要なためコストが低く、また紹介者が自社カルチャーを熟知したうえで推薦するため、入社後のミスマッチが少ないというメリットがあります。
こうしたメリットから導入企業数は年々増加しており、報奨金額は職種や採用難易度によってさまざまですが、数万円〜30万円程度の範囲で設定している企業が多く見られます。
導入企業が増えた分、社会保険上の区分や職業安定法との関係を整理しないまま運用されているケースも見受けられます。設計段階でルールを正しく把握しておくことが重要です。
社会保険上の取り扱い:「報酬」か「賞与」か
リファラル採用手当が社会保険上の「報酬」と「賞与」のどちらに区分されるかによって、標準報酬月額への影響が大きく変わります。
法律上の定義
「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるすべてのもののうち、3か月を超える期間ごとに受けるもの」
つまり、名称が「手当」であっても「報奨金」であっても、支給頻度が3か月以内なら「報酬(月給)」扱い、3か月を超える間隔で支給されるなら「賞与」扱いになります。
報酬・賞与のどちらに該当するかは、規程の文言だけでなく支給の実態に基づいて個別に判断されます。たとえば「毎月支給が発生する可能性がある」という規程であっても、実際に毎月支給が発生している実績がなければ賞与と判断される可能性があります。逆に、賞与として設計していても実態が月次に近ければ報酬とみなされるリスクもあります。制度設計の際は必ず社労士等の専門家に個別確認することをお勧めします。
リファラル採用手当が「報酬(月給)」扱いになる場合、手当が支給された月の残業代(割増賃金)の計算基礎にも算入が必要になります。この点は見落とされやすく、未払い残業代につながるリスクがあります。こうした運用上の複雑さを避ける観点からも、実務的には半年サイクルでの賞与払いを選択する企業が多い傾向にあります。
支給設計の違いによる判断例
以下は、制度設計のパターン別に社会保険上の取り扱いの目安をまとめた表です。実際の判断は個別の実態に基づくため、あくまで参考としてご覧ください。
| ケース | 支給ルール | 社会保険上の判断(目安) |
|---|---|---|
| ケース① | 人数制限なし。紹介後6か月勤続した翌月に30万円支給(毎月支給の可能性あり) | 報酬(月給)扱いの可能性 標準報酬月額に算入 |
| ケース② | 人数制限なし。紹介後6か月勤続後の直近夏・冬賞与時に支給(年2回) | 賞与扱いの可能性 標準賞与額として届出 |
| ケース③ | 年間3人まで。紹介後6か月勤続した翌月に支給(年最大3回) | 賞与扱いの可能性 (年3回以内のため) |
| ケース④ | 人数無制限。入社都度(月次)3万円を給与と一緒に支給 | 報酬(月給)扱いの可能性 標準報酬月額に算入 |
特定の月(4月〜6月)にリファラル手当が支給されると、定時決定(算定基礎届)の標準報酬月額を押し上げ、年間を通じた社会保険料が増える可能性があります。支給タイミングの設計も重要です。
職業安定法違反になるリスク
社会保険の問題と並んで見落とされがちなのが、職業安定法違反のリスクです。
職業安定法第40条の規定
第40条 労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。
条文のポイントは「賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合は除く」という例外規定にあります。リファラル採用手当をこの例外に収めるには、就業規則(賃金規程)に賃金として明記した上で労働基準監督署に届け出ることが必要です。
職業安定法第40条に違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課される可能性があります(同法第65条)。罰則規定がある以上、「知らなかった」では済まされません。
「有料職業紹介事業」に該当するリスク
さらに注意が必要なのが、制度の運用が「有料職業紹介事業」とみなされるリスクです。従業員が人を紹介してお金を受け取るという構造は、設計次第では厚生労働大臣の許可が必要な有料職業紹介事業に該当すると判断される可能性があります。
特に紹介人数の上限がなく、事実上「紹介すればするほど稼げる」仕組みになっている場合、副業的な人材紹介業とみなされるリスクが高まります。
年金事務所の指導事例
リファラル採用を導入する企業の増加に伴い、年金事務所の算定調査においてリファラル採用手当の取り扱いが確認されるケースが増えています。特に支給設計が曖昧なまま運用されている場合に指摘を受けやすく、実務上の注意点として社労士の間でも関心が高まっているテーマです。
実際に年金事務所の調査において、以下のようなケースで指摘を受けた事例が報告されています。
- 月次給与と一緒に紹介手当を支給していたが、標準報酬月額の算定基礎に含めていなかった
- 就業規則や賃金規程に根拠規定がないまま手当を支給しており、賃金か報酬かの区分が不明確と指摘された
- 毎月複数名の紹介が発生し、事実上毎月支給されていたにもかかわらず、「賞与」として届け出ていた
年金事務所の調査は事後的に数年分を遡って確認されるケースがあります。制度導入後であっても、現行の設計が適切かどうかを社労士に確認することをお勧めします。
適切な制度設計のポイント
① 就業規則・賃金規程への明記が大前提
職業安定法の例外規定(賃金として支払う場合)に収めるためには、就業規則または賃金規程にリファラル採用手当の根拠を明記し、労働基準監督署に届け出ることが必要です。規程に根拠のない支払いは、賃金ではなく「報酬の供与」と判断されるリスクがあります。
規程に盛り込むべき項目(例)
- 支給対象者の定義(正社員のみか、パート・アルバイトも含むか)
- 支給条件(紹介後○か月継続勤務など)
- 支給金額・支給時期
- 年間の紹介上限人数
- 会社として推奨する活動である旨(義務付けではなく推奨として)の位置づけ
② 「業務との関連性」を規程上で明確にする
有料職業紹介事業への該当リスクを回避するためには、リファラル採用活動が会社の意向に基づく行為であることを規程上で示すことが有効です。ただし、ここには重要な注意点があります。
リファラル採用活動を「業務命令」として明確に義務付けた場合、友人と話した時間などを業務時間として把握・管理し、残業代等の支給対象にする義務が生じる可能性があります。活動実態の管理が難しく、かえって労務リスクが高まることがあります。「会社として推奨する活動である」という位置づけにとどめ、義務化しない形で規程に記載する方が実務的には無難です。具体的な規程の書き方は社労士に相談することをお勧めします。
③ 紹介人数に上限を設ける
年間の紹介可能人数に上限を設けることで、社会保険上の賞与区分(年3回以内)を満たしやすくなるほか、有料職業紹介事業への該当リスクも低減できます。上限の設定は、制度設計において最も効果的な対策の一つです。
④ 支給タイミングを賞与支給月に合わせる
月次給与とは別に、既存の賞与支給時期(夏・冬)に合わせてリファラル手当を支給する設計にすることで、社会保険上の賞与として整理しやすくなります。また、4月〜6月の支給を避けることで定時決定への影響を軽減できます。
⑤ インセンティブ金額は「社会通念上相当」な範囲で
有料職業紹介事業者の紹介料相場(採用者の年収の30%程度)と比べて著しく高額な設定は、「本格的な職業紹介活動への対価」とみなされるリスクがあります。実務的には10万円前後が多く、高くても20〜30万円の範囲にとどめるケースが中心です。
導入前・見直し時のチェックリスト
リファラル採用手当を新たに導入する場合、または既存制度を見直す場合は、以下の項目を確認してください。
- 就業規則(賃金規程)にリファラル採用手当の根拠が明記されているか
- 就業規則の変更届を労働基準監督署に提出しているか
- 支給頻度が年3回以内に収まる設計になっているか
- 年間紹介人数の上限が規程に設けられているか
- 義務付けではなく「推奨活動」として規程上で位置づけているか
- 社会保険料の算定基礎(報酬 or 賞与)が正しく区分されているか
株式上場(IPO)の審査においては、社会保険料の算定誤りは「未払い賃金」と同様に過去債務として問題視されます。また、職業安定法違反はコンプライアンス上の重大な指摘事項となり、審査に影響する可能性があります。上場準備を進めている企業は特に早期の制度整備が必要です。
まとめ
リファラル採用手当は採用コスト削減と定着率向上に有効な制度ですが、設計を誤ると社会保険料の算定漏れや職業安定法違反というリスクを招きます。主なポイントを改めて整理すると、以下の通りです。
- 報酬・賞与の区分は規程の文言だけでなく実態で個別判断されるため、専門家への確認が必須
- 報酬扱いになる場合は、支給月の割増賃金計算基礎への算入も必要になる
- 就業規則・賃金規程への明記と届出が職業安定法違反回避の最低条件
- 人数上限の設定と賞与サイクルでの支給が実務的なリスク低減策として有効
- 義務化ではなく推奨として位置づけることで、労働時間管理義務の発生を防げる
制度の設計・見直しに際しては、社会保険労務士に相談しながら進めることをお勧めします。年金事務所の調査は数年分を遡るケースもあるため、現在の制度が適切かどうかの確認は早いに越したことはありません。

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