【社労士監修】企業が押さえておくべき「メンタル休職対応」実務

精神的な不調による休職対応は、労務の中でも難易度が高いテーマの一つです。
表面的には同じ「メンタル不調」であっても、背景・症状・本人の意向・医師の判断が大きく異なるため、対応の標準化が難しい領域でもあります。

本記事では、実際に企業が直面しがちな課題をふまえながら、初動から復職判断までの流れをわかりやすく整理します。

 

メンタル不調対応が難しい理由

精神面の不調は、骨折や外傷とは異なり「外から見えない」症状です。
そのため、

  • 本人の申告内容がどこまで事実なのか
  • 医師の診断書にはどこまで信頼を置けるのか
  • 就労が本当に困難なレベルなのか
  • 配慮と放置の境界線はどこなのか

といった判断が非常に複雑になります。

また、医師によっては本人の訴えを強く反映した診断書を作成するケースもあり、
「会社が見ている本人の様子」と「医師の診断結果」が噛み合わないことも珍しくありません。

初動対応:まず何を確認すべきか

1. 診断書の内容確認

最初の確認ポイントは診断書の記載内容です。

  • 自宅静養が必要なのか
  • 通院治療を続けながら働けるのか
  • 就労にあたり必要な配慮は何か
  • 療養期間はどれくらいか

これらが曖昧な場合は、主治医へ確認する必要があります。

2. 本人に兆候はあるが診断書を出さない場合

「大丈夫です」と本人が言い張るケースもよくあります。
断続的な欠勤や明らかな様子の変化がある場合は、まずは受診を勧めるところから。
どうしても応じない場合は、受診指示(業務命令)の発出を検討します。

休職命令を出す際のチェックポイント

休職対応で特にトラブルが多いのは「書面の不備」です。

● よくある失敗例

  • 休職命令を口頭だけで伝えていた
  • 発令日を曖昧にしてしまった
  • 就業規則の休職要件(欠勤日数など)を満たしていないのに発令した

これらは、後に復職や退職処理が無効になる大きなリスクとなります。

● ポイント

  • 発令書は必ず書面で渡す
  • 就業規則の休職要件に客観的に合致しているか確認
  • もし過去に発令を失念していた場合は、気づいた時点から書面化する

休職期間中によくある誤解:SNSでの元気そうな姿

休職中の社員が旅行や外出をしている様子がSNSに投稿され、
「療養中なのにおかしいのでは?」
と問題視されることがあります。

しかし、過去の裁判例では、

  • 日常生活を問題なく送れる
  • 一時的な外出が症状の悪化と直結しない
  • メンタル疾患特有の回復プロセスである可能性がある

と判断され、懲戒処分は否定される傾向があります。

企業側は「療養=外出禁止」と短絡的に考えず、慎重な判断が必要です。

 

復職場面が最も難しい:主治医と産業医の“食い違い”

復職判断では、

  • 主治医:復職可能と判断
  • 産業医:復職は困難と判断

というパターンが非常に多く見られます。

● その理由

主治医の特徴

  • 日々の診療経過は詳しい
  • ただし職務内容を把握していない
  • 本人の希望をそのまま反映しやすい

産業医の特徴

  • 業務遂行能力の判断に強い
  • ただし治療経過の細かい情報は少ない

● 企業が取るべきアプローチ

  • 主治医には「仕事内容を理解したうえで診断しているか」を確認
  • 産業医には「就労可能か/どの程度の配慮が必要か」を具体的に意見をもらう
  • 必要に応じてサードオピニオンも活用
  • 試し出勤(リハビリ出勤)で様子を見る

最終判断は医師ではなく、企業(人事権者)が行う点も非常に重要です。

まとめ:メンタル休職対応は「型」で進めることが重要

メンタル不調への対応には明確な正解がありません。
しかし、以下を押さえることでトラブルの多くを回避できます。

  • 初動の段階で診断書の内容を正確に把握する
  • 就業規則に沿った休職発令を「書面」で行う
  • 休職中の行動に対して過剰反応しない
  • 復職判断は主治医・産業医双方の情報を整理して行う
  • 最終判断は会社が責任をもって行う

ステップごとに冷静な対応を積み重ねることで、
企業としてのリスク低減と社員の適切な復帰支援の両立が可能になります。

 

ミナジン勤怠BPOでは産業医のご紹介も行っております。
サービスのお知らせ

 

株式会社ミナジン
社会保険労務士法人ミナジン
社員社労士
藤井 雅之
社労士事務所を複数事務所経験後、株式会社ミナジンに入社。アウトソーシング事業部でマネージャーとして数千名の会社様のBPOサービスの立ち上げから運用までを行う。
現在は社会保険労務士法人ミナジンの社員社労士としてクライアントのカスタマーサクセスやオペレーション改善を行っている。