大企業が推進してきた働き方改革は中小企業にどういった影響を及ぼしたのか?│中小企業の労務管理の実態が浮き彫りに【セミナーレポート】

大企業からスタートした働き方改革は中小企業にどのような影響を及ぼし、実態はどうなっているのか?「未払い残業・メンタルヘルス・ハラスメント」の最新判例(裁判結果)や学術的調査結果から見えてきた中小企業の対応策について、働き方改革施行後の3年間(2019~2021年)を振り返ります。
それらを踏まえて2022年以降の中小企業は労務管理を行う上で、どういった準備や対応が迫られるのか?を紐解いていきます。

本記事は2022年2月に開催した「【武蔵大学森永教授らが紐解く】施行から4年、大企業が推進してきた働き方改革は中小企業に明るい未来をもたらしてくれるのか?」のセミナーレポートになります。

働き方改革に伴いウェルビーイング経営が注目され始めた

第1部では大企業における働き方改革と残業時間の関連性について、ウェルビーイング経営の観点から武蔵大学経済学部経営学科教授の森永雄太氏にお話しいただきました。

ウェルビーイング経営とは

森永氏:私からは労働時間管理が企業に何をもたらすのかという点において、研究内容を踏まえた結果と考察についてお話をしていきます。

まず、ウェルビーイング経営という言葉について紹介させてください。近年耳にする機会の増えた言葉ですが、会社が持続的に成長していくための仕組み作りだというのが私の考えです。具体的には、従業員マネジメントの結果として従業員のウェルビーイングが向上し、長期的に見ると会社の持続的な成長に結びついていくという経営方法のこと。つまり、会社の成長にあたってはウェルビーイングが非常に重要な役割を持つわけです。

このウェルビーイングについては、心理学において2つの種類があるとされています。まず、肯定的な感情が多く、人生への満足度が高い状態です。一方、単に幸せというだけでなく、チャレンジ、挑戦をしている状態もウェルビーイングだと言えます。その瞬間だけを見ればチャレンジに伴う苦痛、摩擦が発生していますが、人生に意味を見出して潜在能力を発揮しようとしている状態は幸福だと言えますよね。そして、この状態こそがウェルビーイング経営にフィットしやすい状態なのです。

ウェルビーイング経営が重要視されている背景

なぜ近年、ウェルビーイング経営が重視されているのでしょうか?理由は2つあり、まずは労働人口の減少です。生産年齢人口が減少する中、優秀な人材の確保が難しくなってきており、企業は多様な働き方をする人材を採用する必要が出てきました。次にVUCAの到来です。(VUCA(ブーカ):Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語で、社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況のこと)現代社会は変化のスピードが速く、既存ビジネスでの売上確保がますます困難になってきています。結果、企業は既存の事業を展開しながら新事業もトライしていく必要がある、すると従業員自身が前向きかつ主体的に行動していく必要が生じます。

だからこそ、企業の持続的な成長にあたっては従業員のウェルビーイングを高めることがとても大事になってくるんです。

労働時間管理(残業時間)とウェルビーイングの関連性

さて、ここからいよいよ本日のテーマである労働時間管理がどのようにウェルビーイング経営に繋がっていくのか、3つのポイントを踏まえて紹介していきたいと思います。

大企業における労働時間管理への取り組み状況

まず、私が過去に行ったアンケートの結果を紹介させてください。以下をご覧ください。

■ 調査対象
500名以上の規模の組織で働く従業員1,000名 課長未満の担当者
■ 調査項目
・労働時間(3週間の労働時間を自己申告してもらい、週当たりの労働時間を算出)
・被ハラスメント的行動1(私の上司は仕事中、あなたのことを過度に監視している)
・被ハラスメント的行動2(私の上司は私が本来得ているはずの権利を主張しないように圧力をかけている(例:休暇取得、旅行など)

まず大企業で労働時間管理がどの程度進んでいるのかについて、大企業においては労働時間管理が非常に進んできており、月間の残業時間が40時間未満である従業員が全体の45%を占める結果であることが分かります。2020年に同様の調査を行った際と比較しても残業時間は減少傾向にあり、労働時間管理が更に進んでいることが明らかでした。

また、労働時間と非ハラスメント行動の関係には有意な差が見られました。残業時間が50時間未満のグループ、50時間以上グループを比較したところ、2種類の非ハラスメント的行動(上記の調査項目を参照)のいずれにも有意な差がありました。

調査結果をまとめると下記2点が示唆として得られます。
1.労働時間管理は非常に浸透してきており、特に大企業においてはより進んでいる
2.労働時間のマネジメントによって上司によるハラスメント的行動を抑える効果がある

中小企業においても労働時間管理への取り組みが必須に

上記の調査からは大企業で労働時間管理が確実に進んでいることが分かりました。が、長期的な視点で見ると、これは大企業だけでなく中小中堅企業でも当たり前になってくるでしょう。

きちんと労働時間を管理することは優秀な人材、多様な人材の確保だけでなく役割分担や業務フロー改善へも繋がっていきます。つまり、会社の持続的な成長にあたって労働時間マネジメントをはじめとするウェルビーイング経営は今後、大企業のみならず中小中堅企業にも確実に広まっていくでしょう。

中小企業における勤怠管理の実態とトレンド

ここからは株式会社ミナジン ミナジンラボ責任者木ノ下より勤怠管理の実態とトレンドについての講演をさせていただきます。

働き方改革以前の勤怠管理の状況

まず、働き方改革以前の働き方について振り返ってみましょう。法改正以前はこのようなことがまかり通っていました。

・始業時刻の1時間半前に出社を求められる。しかし、勤怠記録では本来の始業時刻に業務開始として印字され、変更不可だった。
・残業をする際はタイムカードを先に切るように指示される。
・出勤簿に押印するだけのタイムカードにして証拠を隠滅、未払い残業の訴えを減らすようなアドバイスが横行していた。

こんな働き方、いまは許されないですよね。

働き方改革以降の勤怠管理の状況

働き方改革以降はどのような変化が生じたのか見てみましょう。

まず、従業員の労働時間を適切に把握することが使用者の義務として生じました。
次に、労働時間の把握は客観的かつ適切な方法で行うことが求められるようになりました。
最後に、管理監督者や裁量労働制の適用者についても労働時間状況把握の適用対象となりました。


参照:2020年 労働時間等実態調査|一般社団法人 日本経済団体連合会

結果、どの企業規模においても労働時間が明確に減少し、また、年次有給休暇の取得率についても右肩上がりで向上しています。徐々に働きやすい世の中になってきているんですね。

「客観的な労働時間管理ができている」と判断できる方法としては以下の4つが挙げられます。

・従業員の労働時間を適切に把握する
・勤怠管理における労働時間の把握方法は客観的で適切な方法で行う
・始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録する
・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間などによる客観的な記録を取得する

これからは、上記の方法によって労働時間管理を行い、第1部のウェルビーイングの実現や労務リスク対策を行っていくことが求められます。皆様も自社でできていること、できていないことを洗い出して、従業員の働きやすい会社を作っていきましょう。

そして最後に少し宣伝させてください(笑)。上記4つすべての要件を満たす勤怠管理システムとして、ミナジンの勤怠管理システムをご紹介させていただきます。ご興味のある方は下記からサービス資料をダウンロードください。

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働き方改革以前・以降の企業側と労働者側の意識変化

第3部では、中小企業が働き方改革を推進していくに当たってどのように取り組んでいく必要があるのか、杜若経営法律事務所の向井蘭弁護士、株式会社リーガル・ステーション代表取締役岩崎仁弥氏、岩谷・村谷・山口法律事務所の村本浩弁護士も交えてパネルディスカッションを行いました。

企業の意識変化について

佐藤:まず、働き方改革以降でどのように企業側の意識が変化しているのか見解をいただけますでしょうか?

向井氏:従業員定着のために労働時間管理を行うという会社が増えてきています。勤怠管理において労働時間を上書き修正したことが告発され、大問題に繋がるケースを数多く見てきました。今までは労働時間管理に対する意識が甘かった。しかし、現在は大企業だけでなく中小企業においても、優秀な従業員をやめさせないため、労働時間管理に対して誠実に向き合い、実労働時間の把握に努める企業が増えてきています。

佐藤:労働時間の改ざんは大問題ですが、今までは普通に行われていましたね。

なおミナジンの勤怠管理システムは打刻の上書き修正ができない仕様となっていますが、これはプロダクトローンチ時(2009年)からの仕様です。以前、この仕様は労働時間の改ざんができないとして、上書きができるようにしてほしいという要望を数多く頂いてきました。が、私どもとしては打刻の上書き修正ができるということは自社の労務課題を認識できなくなるということだと捉え、あえてお客様からの要望を断り続けてきました。そして働き方改革以降、ようやく実労働時間の把握が重視されるようになり、上書き修正ができないシステムを求めてミナジンを契約いただくというケースが目立つようになりました。それだけ今はどの会社様も実労働時間の把握を重視されているということですね。

村本氏:労働時間の上書き修正ができないということは非常に重要です。私が過去に担当していた案件でも100時間超えの労働を上書きしていたケースがありました。それが過労死に繋がってしまった。後から調べると労働時間の上書き修正が発覚し、ようやく労働時間を短くしていくための取り組みに着手し始めました。

しかし、現代社会においては労働時間の上書き修正なんてどうやっても発覚してしまうのですね。ある例では、スマホの万歩計アプリによって会社から帰宅していた時刻が把握され、実労働時間の把握に繋がりました。つまるところ、スマートフォンを始めとしたさまざまなデバイスがある現代において、労働時間の偽造なんて不可能なわけです。

従業員の意識変化について

佐藤:続いて、企業だけでなく従業員の意識変化についてもご意見をお聞きしたいと思います。

森永氏:近年、若い方の中がどういう企業で働きたいかという意識が非常に変わってきています。皆、ブラック企業を避け、ホワイトな企業で働きたいと考えているんですね。だからこそ、労働時間管理を行うことは優秀な人材を採用するための第1歩だと言えるでしょう。

しかし、その取り組みを採用に繋げていくにはもう一工夫が必要です。若手はきっちりと労働時間管理を行っている会社で働きたいと思う一方で、そんな会社を見つける方法がなかなかないんです。そこで、有給休暇の取得率や平均の残業時間などの数値を採用サイトで発信し、働きやすさをアピールする企業が増えています。もしくは健康経営有料法人、ダイバーシティの認証など各種証明を取得する企業もいます。そのような証明を取得した企業のリストから入社先を探そうとする学生は徐々に増えているので、求職者から見つけられやすいような発信を行っていくことはとても重要ですよね。

企業側と従業員側の意識のギャップが大きくなっているケースも

佐藤:企業の変化に伴って従業員の意識も変化してきている点はどのようにお考えですか?

向井氏:弊所では勤務する弁護士の労働時間を管理しているのですが、弁護士を目指す方にその話をすると非常に驚かれることが多いんです。というのも、多くの弁護士が業界をブラックだと感じており、労働時間管理をしているという話ですら魅力的に聞こえるんですね。これは我々にとっても採用における大きな武器となります。

しかし、その労働時間管理に対して最も意識が低いのが経営者であるというケースが見られます。すると採用においても優秀な人材が集まらなくなり、徐々に企業が衰退してしまう。だからこそ経営者から率先して変わっていく必要があると感じます。

佐藤:おっしゃる通り求職者と経営者で労働時間管理に対する意識の差が生じているように感じます。そして、優秀な求職者を呼び込むには経営者から変わっていく必要がありますね。

2022年以降、中小企業が気を付けなければいけない労務管理のポイント

佐藤:少し話の角度を変えてみます。まさに今、私たちは働き方改革の中で日本の労務環境が変わっている過渡期にいます。このような状況下で今後、企業が今まで以上に気を付けるべきポイントを伺いたいと思います。

向井:代休の蓄積が今後、問題になってくるのではと思います。例えば、ある会社において一人当たり平均で10日程度の代休が溜まっているとすると、数千万円の未払い賃金が発生している可能性がありますよね。このような、代休にまつわる未払い賃金の問題はいずれクローズアップされることになるのかなと考えています。

岩崎:私の担当する会社で代休の運用を間違えていたところがあり、25%分の割増支払いが足りていなかったため、是正勧告を受け、過去の勤怠記録を遡って未払い分を支払ったというケースがありました。いよいよ、細かい点まで見られる時代に突入してきたなという感覚です。

佐藤:確かに代休や振休の未消化問題はありますね。近年は、一定期間の経過後に消化されていなかった代休や振休を残業代として組み込むというケースも増えてきています。しかし、一方で代休や振休の制度が悪用されてしまい、未払い問題に繋がるケースも散見されます。

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村本:やはり労働時間管理について細心の注意を払うべきだと思います。今までは勤怠管理システムを入れることに対して企業サイドの抵抗がありました。勤怠管理システムを導入することで打刻による勤務開始と勤務終了が可視化され、例え仕事をしていなかったとしてもその勤務時間に対して賃金を支払わなければなくなってしまう。しかし、今は勤怠管理システムを入れてなかったとしてもスマートフォン等で労働時間の認定がされてしまいます。とすると勤怠管理システムを入れていなかったところで労働時間の記録は残るわけで、問題に対して見て見ぬふりをするよりも、問題を発見してどう解決するかという方が重要になってきます。まだ勤怠管理システムを導入していない企業は、ぜひ導入を検討してみてください。

佐藤:ありがとうございます。それでは本セミナーは以上とさせていただきます。登壇者の皆様、またご参加いただいた皆様、改めてありがとうございました。

本セミナー登壇者


武蔵大学経済学部経営学科教授
森永 雄太

兵庫県宝塚市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。専門は組織行動論、経営管理論。著書は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方:健康経営の新展開』(労働新聞社)等。2019年日本労務学会研究奨励賞、2020年日本経営学会論文賞受賞

杜若経営法律事務所 パートナー弁護士
向井 蘭

2003年、弁護士登録(第一東京弁護士会)。一貫して使用者側で労働事件に取り組み、団体交渉、ストライキ等労働組合対応から解雇未払い残業代等の個別労使紛争まで取り扱う。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、雑誌に寄稿し情報提供活動も盛んに行っている。

【著書】
「時間外労働と、残業代請求をめぐる諸問題」(経営書院 共著)
「社長は労働法をこう使え!」(ダイヤモンド社)
「書式と就業規則はこう使え!」(労働調査会)
「ケースでわかる 実践型 職場のメンタルヘルス対応マニュアル」(中央経済社)

岩谷・村本・山口法律事務所 弁護士
村本 浩

訴訟、企業・労働法務、個別的労働関係紛争・団体的労使紛争への助言・代理、労務に関するコンプライアンス意見書作成、労務デューデリジェンスなどに従事。

岩崎仁弥株式会社リーガル・ステーション 代表取締役
特定社会保険労務士
岩崎 仁弥

人事・総務関係業務に10年間従事した後、講師業に転身。 平成16年より『ビジネスガイド』『SR』『社労士V』(いずれも日本法令)の3誌で執筆を開始。実務家から開業社会保険労務士まで幅広いファンを獲得する。SR(Social Responsibility)の時代に先駆け「難しい法律も原理を押さえれば理解は簡単」をモットーに、労働時間管理や就業規則に関する諸法令をビジュアルに分かりやすく解説。制度の趣旨や時代背景から説き起こす「納得させる」語り口が好評である。また、各企業に向けた労務コンサルティングのほか、社内諸規程コンサルティングでも実績を上げている。

株式会社ミナジン代表取締役社長
佐藤 栄哲

1970年大阪府枚方市生まれ 神戸大学経営学部(金井壽宏ゼミ)在学中に現ミナジンの礎を創業。 1993年大学卒業後、丸紅株式会社に入社。新規事業・市場開発を担当。事業拡大の功績を認められ29歳でワイン製造販売会社の取締役起業責任者としてアルゼンチンに赴任。デフォルトの危機的状況下にて、会社設立3期目で業界トップシェアを獲得。 本社への帰任辞令を期に同社退職、再度当社経営に参画。 翌年代表取締役社長就任、現在に至る。

株式会社ミナジン MINAGINE Lab 事業責任者
木ノ下 祐一朗

大学卒業後、大手コンサルタント会社入社。人材開発・組織開発の企画営業、営業責任者を経験。その後、ベンチャー企業での人材採用支援コンサルティング業務を経て、外資系ヘッドハンティングの東京オフィス責任者としてCxO人材採用を支援。株式会社ミナジンに入社後は、ミナジンLabの事業責任者に就任し、社労士コミュニティ形成とエコシステム構築に向けて事業推進中。

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