働き方改革でアルバイト雇用はどう変わる?企業が気を付けるべき点
2019年4月より、「働き方改革関連法案」の適用が始まります。
しかし、法案の対象となるのは正社員だけではありません。アルバイトを採用する際にも、この法案を考慮に入れる必要が出てきます。
ここでは、アルバイトを雇用する利点・欠点、そして働き方改革で雇用がどう変わるかを、お伝えしたいと思います。
目次
アルバイト「雇用時の注意点」と「雇い入れるメリット」
「アルバイト」とは、1週間の所定労働時間が、同じ事業所に雇用されている正社員と比べて短い労働者のことを指します。
正社員とは雇用形態が違うので、適用される法案にも差があります。では、今回の「働き方改革関連法案」によって、以前とはどのような違いができ、それによって企業内にどんな変化が生じるのでしょうか。
まずはアルバイト雇用時の注意点と、メリットを見ていきましょう。
アルバイト雇用時の注意点
アルバイトを雇うには、あらかじめいくつかの書類を提出する必要があります。
まずは、源泉徴収のために必要な「給与支払事務所等の開設届出書」を取得しましょう。
アルバイトを雇う企業は「労災保険」「雇用保険」への加入が義務づけられています。
そのため、労働基準監督署には「労働保険関係成立届」「労働保険概算保険料申告書」の2通を提出。ハローワークには「雇用保険適用事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」を提出してください。
また、アルバイトを含めた従業員が5人以上になる場合には、厚生年金への加入も義務づけられます。そのため、社会保険事務所に「新規適用届」「被保険者資格取得届」といった書類を提出する必要があります。
常時10人以上の労働者を雇用している会社は就業規則が必要です。就業規則は労働基準監督署への届出が必要です。
必要書類の届け出に不備がないか、再度チェックを行いましょう。
企業がアルバイトを雇い入れるメリット
企業が、アルバイトを雇用するメリットはどこにあるのでしょうか。
まずあげられるのが、人員調整のしやすさです。正社員ではないアルバイト従業員は、必要なときに、必要な人数を、必要な時間だけ雇い入れることができます。
アルバイトの雇用は、固定費のコストカットにもつながります。アルバイト従業員は、1時間あたりの賃金が正社員や契約社員よりも低い傾向にあります。
アルバイトは単に時間あたりのコストを下げるだけではなく、長期的な人件費の節約にも一役買ってくれます。正社員には、毎月同じ金額の給料を支払うのが一般的です。
それは売り上げが低い月でも変わりません。
その点、時給採用が一般的なアルバイトは、忙しいときだけ雇い入れれば、その時間分だけのコストで済みます。アルバイトを適切に活用することで、売り上げが高い月にはそれに見合う人員を投入でき、低い月には人件費を抑えることができるのです。
アルバイト従業員は、そのまま正社員として採用できる可能性もあります。
現場を知り尽くしたアルバイト従業員は、即戦力として活躍してくれるでしょう。
求人広告を出す費用を削れる上、教育にかかる手間と時間も省けます。
職場の環境次第では、アルバイトの雇用は企業にとって、非常にメリットの多いことなのです。
アルバイトはどうなる?働き方改革の種類と施行のメリット・デメリット
「働き方改革」のテーマは、細分化されています。ここでは改革の理念と、企業にどのようなメリット・デメリットをもたらすのかを解説します。
9種類のテーマに分けられている
政府は、労働者の生産性・待遇の改善などを念頭に「働き方改革実行計画」を打ち出しました。その計画は、大きく9つのテーマに分けられます。
1.非正規雇用の処遇改善
2.賃金引き上げ・労働生産性向上
3.長時間労働の是正
4.転職・再就職支援、人材育成
5.柔軟な働き方
6.女性・若者の活躍
7.高齢者の就業支援
8.病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立
9.外国人人材の受け入れの問題
これらは企業で働く「人」にフォーカスを当てています。労働者が生き生きと働ける環境をつくることが、職場の活発化をうながし、企業の生産性を向上させると考えているのです。
なかでもアルバイトを雇用する際に気をつけたいのは「1.非正規雇用の処遇改善」というテーマです。非正規雇用であるアルバイトと、正規雇用である正社員との待遇の違いに世間の注目が集まっています。
そのため「コストが削減できるから」「短期で雇い入れればよいから」という安易な考えでアルバイトを雇用すると、大きな問題に発展しかねません。いくつかの問題点を回避させるために、「働き方改革によるアルバイトの待遇の変化」に、目を向ける必要があるのです。
企業から見た働き方改革のメリット・デメリット
働き方改革のメリットは、従業員が働きやすい環境をつくることができる点にあります。
アルバイト従業員の場合においても、企業にとっては正社員を雇用するのと同じくらい、採用までにはいくつもの手間と時間がかかっているはずです。よい環境を整えて長く働き続けてもらうほうが、互いにとってよい結果を生むことは間違いありません。
働き方改革によって正社員のモチベーションが上がれば、職場の雰囲気も自ずとよくなります。現場を指揮する正社員が長く続けてくれれば、そのぶんアルバイトを使った現場の運用も滞りなく進められるでしょう。
一方、法案の施行によって職場環境の見直しを余儀なくされた管理職は、かえって仕事量が増えてしまう可能性があります。また、正社員が多く休みを取り、アルバイトでもそれをまかなうことができなくなると、残った仕事は管理者が行うしかありません。
また、法律の改正にともなって、雇用側は多くの配慮をする必要が出てきました。時間外の労働などには特に注意が必要で、規定以上の労働を課してしまうと、罰則が課せられこともあります。
場合によっては、一個人が書類送検されてしまうケースもあるため、慎重な対応が求められます。
アルバイトに関わる「働き方改革関連法案」制定されるルール
「働き方改革関連法案」では、「働き方改革」に関わる8つの法律がまとめて改正されます。
8つの法律とは「雇用対策法」「労働基準法」「労働時間等設定改善法」「労働安全衛生法」「じん肺法」「パートタイム労働法」「労働契約法」「労働者派遣法」を指します。
そのうち、「労働契約法」と「じん肺法」を除いた6つの法案、「雇用対策法」「労働基準法」「労働時間等設定改善法」「労働安全衛生法」「パートタイム労働法」「労働者派遣法」が主要な法律改正の対象です。
また、上述した改正案の内容で、アルバイト雇用に大きく関わってくるものは「有給休暇」「同一労働・同一賃金」があげられます。
有給休暇などの福利厚生
有給休暇の取得は、労働基準法で定められた労働者の権利です。アルバイトやパートであっても「雇い入れ日から6か月が経過しており、全労働日のうち8割以上出勤している」といった一定の条件を満たしているならば、企業側は有給休暇を与える義務があります。
なお、有給の取得には雇用者の承諾は不要な上、労働者には休暇をとる理由を明かす義務はありません。アルバイト従業員が「有給を取りたい」と申し出があったときは、拒否することはもちろん、理由を詮索することも控えるべきです。
また、法案の施行にともない、「すべての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち5日については、使用者が時季を指定して取得させなければならない」というルールが加わります。
「年10日以上の有給を取得できる労働者は、最低でも年に5日間は有給をとることが義務化される」ということです。アルバイトでも対象になり得るため、条件をよくチェックしておきましょう。
同一労働・同一賃金
もうひとつ注意しておきたいのが「同一労働・同一賃金制度」です。この法律は、正規雇用社員と非正規雇用社員の賃金格差を解消するために定められました。
雇用形態に関係なく、同じ業務に携わった社員には、同等の報酬を支払うことが義務づけられます。
よって、業務内容が同じであるにもかかわらず、雇用形態によって賃金に差がある企業は対外的に納得のいく説明を求められます。仮に明確な根拠を提示できなかった場合、世間から糾弾される可能性があるということです。
この制度には猶予期間が設けられており、大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から施行になります。
この法案に備え、企業側は対策を練る必要があります。なぜなら、すべての労働者の賃金を正社員と同じ額まで引き上げてしまうと、経営が破綻する恐れが生じるからです。
まず、正社員とアルバイトとの業務の違いの明確化を行わなければなりません。この法案は「同じ労働に対し、同じ賃金を支払う」という考えのもとに成り立っています。つまり、職責や役割を差別化できれば、賃金を同じにする必要はありません。
次に、従業員の数を減らして採算をとる方法があげられます。具体的には、売り場のレジの自動化を進めたり、セルフサービスの幅を広げたりといった取り組みです。生産性を下げない工夫をしつつ、人件費を削ります。
その他にも販売価格を引き上げる、基準となる正社員の賃金を下げるという方法もありますが、長期的にはマイナスに働く要素が多くなる場合もあります。施行までに、ベターな方法を探っていくべきでしょう。
まとめ
このように、働き方改革は企業とアルバイトとの関わり方に大きな変化をもたらします。少なくとも、以前と同じような感覚でアルバイトを雇用することはできなくなるでしょう。
しかし、アルバイトがうまく機能してくれれば、企業は大きな利益を受け取ることができます。そのためには、企業側は多様化する雇用形態の変化を、敏感に察知していく必要があるのです。