IPOまでのスケジュールは?やるべきことを時期別に解説

IPOは数年に及ぶプロジェクトなので全体像を把握して逆算志向で計画的に準備することが不可欠です。

本記事では、企業がIPOするまでの一連のスケジュールの全体像と、それぞれの時期に何をすべきかについて詳しく解説します。

IPOを意識し始めたN-3期以前の事前準備から、監査法人、証券会社のコンサルテーションを受けながら準備を進めるN-3期~N1期、証券取引所に上場申請を行い審査を受けるN期までのプロセスを時期別に分けて紹介します。また、各フェーズで必要とされるアクションを解説します。

本記事を通じて、IPOに向けたロードマップの描き方や効率的な準備の進め方の理解にお役立てください。
なお、本記事においてはIPOは、特記事項がない限り、東京証券取引所の本則市場への上場を前提に記載を行っています。

IPO準備期間の基礎知識

IPOまでの準備期間は、プライベートカンパニーである非上場企業からパブリックカンパニーである公開となるための上場適格性を満たす準備期間であり最短でも3年程度を要します。
これは、上場会社等監査人として登録されている監査法人が、企業の財務諸表に対して2年間の無限定適正意見を表明した監査報告書が必要となるためです。

そして、IPOを実現するための審査基準には、形式基準と実質基準があり、IPO準備期間においては主に実質基準を満たすための準備期間と言えます。
実質基準は、東京証券取引所の定めによると以下の通りです。

プライム市場スタンダード市場グロース市場
企業の継続性及び収益性事業計画の合理性
企業経営の健全性
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
企業内容等の
開示の適正性
企業内容、リスク情報等の
開示の適切性
その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項

上記の実質基準はより細分化されているため、それぞれの基準を「上場適格性がある」と認められる水準まで内部管理体制の整備状況を引き上げる必要があることから、専門的かつ広範囲に渡り企業運営の体制強化を図る必要があります。

この様に、監査法人による監査証明の要件と審査基準の実質基準を満たすための準備期間として、最短でも3年程度を要することとなっています。

IPOのスケジュール

IPOのスケジュールは、主に次の5つに分けられます。

・N-3期以前
・N-3期(期首残高以前)
・N-2期(直前々期)
・N-1期(直前期)
・N期(申請期)

N-3期以前

N-3期を監査法人によるショートレビューを受ける期と定義した上で、N-3期以前のIPOすることを意識し始めたタイミングから、IPO準備の取組みを徐々に始めることが、N-3期以降のIPO準備をスムーズに進めるための肝と言えます。
IPO準備を意識し始めると一般的には、「まずは監査法人によるショートレビューを受ける」というアドバイスがあると思いますが、IPO準備に向けて体制整備や内部管理体制の整備を徐々に始めていないと、ショートレビューを受けたとしても「何もできていない」というショートレビューの報告書を受けることになります。そのため、IPOすることを意識し始めたN-3期以前より内部管理体制の整備を徐々に始めることを推奨しています。

具体的には、以下の内容についてはN-3期以前に実施することを推奨しています。

・プロジェクトチームの設置
・コンサルタントの選定
・労務デューデリジェンス(DD)

プロジェクトチームの設置

IPO準備のプロジェクトは、財務経理・法務・総務・システム・内部監査等の幅広い業務範囲のため、1人でIPO準備を進めることは困難です。そのため、担当する業務領域の担当者でチームを組成し、IPO準備作業を効率的に進行させるために行われます。

プロジェクトチームは、管理部門を管掌する役員、管理部門の担当者を中心に結成され、社内におけるルールの定着化や外部のステークホルダーと適切に連携をすることが求められます。

プロジェクトチームの適切な運営は、IPOに向けた準備作業の成功を大きく左右します。

コンサルタントの選定

IPOコンサルタントの選定は、IPO準備を効率的かつ効果的に進めるために重要な役割を担います。
社内にIPO準備について知見が無い場合には、IPOコンサルタントにプロジェクトの推進を伴走してもらわなければIPO準備スケジュールを進めるのは難航すると思われます。

IPOコンサルタントにも種類があり、「IPOプロジェクトのマネジメントをするプロマネコンサル」と「IPO準備に必要となる資料作成や業務を代行するBPOコンサル」があります。
IPO準備期間だけでなく、IPO後も決算開示業務や投資家対応、コンプライアンスの遵守等が求められることから、初期からBPOコンサルに頼るのではなく、自社リソースを充実させて自立自走出来るメンバーを採用し、そのメンバーをプロジェクト推進する形でプロマネコンサルがいる方が好ましいと思います。

一方、その際のプロマネコンサルは、過去にIPO準備会社の社内で実務担当者として関わった実績や、IPO準備のプロマネコンサルとしてノウハウが蓄積されている法人を選ぶことを推奨します。

労務デューデリジェンス(DD)

労務デューデリジェンス(DD)とは、主にIPO準備中の企業やM&Aにおける買収対象企業に行われる、労務関連のリスクや課題を洗い出すプロセスです。一般的には社会保険労務士に依頼して実施されます。

特に、未払い残業代に繋がるような労務問題がないかの調査を行います。未払い残業についてはIPO審査のノックアウトファクターと言われ、IPOの審査がストップしてしまう事象となっています。また、未払い残業代に関わる時効は3年間(執筆時点)であることから、N-3期以前に労務DDを行い未払い残業代のリスクを洗い出して置く必要があるため、早期に着手する必要があります。

N-3期(期首残高以前)

N-3期(期首残高以前)では、IPOを滞りなく進行させるための準備を行います。
N-2期以降になると監査法人や証券会社の応対が増えるため、N-3期にプロジェクトチームとコンサルタントが協議しながら課題を解消するための段取りをしておくことが重要となります。

具体的には、以下に示した項目について準備を進めます。

・ショートレビューで一般的な指摘事項を前倒して対応する
・事業計画の策定
・資本政策の方向性の検討
・監査法人の選定
・ショートレビューの実施

ショートレビューで一般的な指摘事項を前倒して対応する

ショートレビューは、監査法人が行う簡易的な課題調査であることから、主に財務会計(決算)に関わる内容と上場審査の実質基準の内、重要な論点となる事項について資料確認とヒアリングにより実施されることとなります。
その際、資料確認で依頼される書類を提出が出来ない又はヒアリングしても出来ていないという回答ばかりが続くと、監査法人としても「何も確認する資料がない」「何もできていない」という課題調査報告書を提出せざるを得なくなります。そのため、コンサルタントのサポートを受けながらショートレビューで一般的に指摘される内容については対応をしておく必要があります。
特に、取締役・監査役の選任の状況、株主総会・取締役会・経営会議等の議事録の作成状況、規程の作成状況、組織図における多重兼務の状況、経理部門の体制の弱さ、反社会的勢力との取引防止体制の構築、過去の行政調査の状況、訴訟・係争事件の状況、その他の実質基準で定められた内部管理体制で早期に着手・解決が出来る内容等は、事前にコンサルタントと相談しながら対応を進めることを推奨します。

事業計画の策定

事業計画の策定とその精度は、IPO準備プロセスの最終段階までモニタリングがされ続けるほど重要な課題です。上場承認が下りた後も月次の予実の進捗状況がモニタリングされ、大幅な乖離が生じるおそれがあると判断された場合には、上場承認の取消事由になる可能性があります。

事業計画の精度の向上は、何度も予算を策定し、その予実差異を分析し、見落としていた要素を予算に組み込むという予算策定自体のPDCAを重ねる必要があるため、N-3期から本格的に予算精度を高めるトレーニングをする必要があります。

資本政策の方向性の検討

IPOは株式(資本)を公開することであることから、IPOに向けた資本政策の検討は非常に重要となります。また、資本政策は、その他のIPO準備のタスクと異なり、一度実行してしまうと元に戻すことが非常に困難です。加えて、資本政策の実行は、専門的な知識が必要であると共に、証券会社や監査法人が認める方法で実行しなければIPOスケジュールに大きな影響を与える可能性があります。そのため、N-3期時点では自社独自で実行するのではなく方向性の検討に留め、証券会社や監査法人からの支援が始まってから実行することを推奨します。

なお、資本政策というとIPO前のベンチャーキャピタル(VC)等からの出資や、従業員に対するストックオプション(SO)、オーナーの資産管理会社の設立等が資本政策に思われがちですが、IPO後の株式資本市場に対する還元も視野に含めた資本政策の立案が必要です。具体的には、IPO後の自己資本比率、配当性向や自己株式の取得を含めた総還元性向、PBR1倍割れをしないための資本残高、資本コストを上回るROEの創出等を検討する必要があるので、IPO準備期間の株主構成だけを資本政策と捉えることなく、IPO後も見据えた資本政策も意識するようにしましょう。

監査法人の選定

監査法人は、IPO準備期間中だけでなくIPO後も財務諸表に対して監査意見を表明し続けることから、IPO後も見据えた選定が必要です。
IPO準備期間中は、ショートレビューの実施、財務諸表に対する監査、財務諸表を作るための基礎となる内部統制の整備と運用状況の監査、Ⅰの部や有価証券報告書等の上場申請書類・開示書類に対するコンフォートレターの発行等と幅広いサポートを依頼することになります。
監査報酬という金銭的な観点だけで選定することは危険であり、IPOの実績の有無、監査手続きを行う主担当者の力量やコミュニケーションのしやすさ等に注意して選定を行うようにしてください。
なお、上場企業を監査するためには監査法人は、「上場会社等監査人登録制度」に基づいて上場会社等監査人として登録されている必要があります。選定しようとしている監査法人が、上場会社等監査人として登録されていることを下記のサイトから確認するようにしましょう。

https://jicpa.or.jp/about/activity/self-regulatory/lcaf/

ショートレビューの実施

ショートレビューは、監査法人が行う簡易課題調査です。

ショートレビューにより財務諸表やガバナンス体制について調査が行われ、課題が抽出されることとなります。また、このショートレビューにより監査法人は監査契約の受嘱の可否を検討しているので、ショートレビューの結果、監査契約の受嘱を断られてしまう可能性もあります。そのため、ショートレビューを安易に監査法人に依頼するのではなく、プロジェクトチームにより内部管理体制を一定程度まで整えてからショートレビューを依頼するようにすることを推奨します。
監査法人は、ショートレビューを行った後に、課題調査報告書を提出します。この課題調査報告書で指摘した重要な内容が解決されていることを確認し、期首残高監査の手続きを行うことになり、期首残高監査が行われるとN-2期に入ることとなります。

N-2期(直前々期)

IPO準備のN-2期(直前々期)では、上場会社として適切な内部管理体制を構築する必要があります。上場会社として適切な内部管理体制は、上述の上場審査の実質基準の要件を満たすことに繋がります。

内部管理体制の整備は、広範囲に及ぶものの代表的には以下に示す項目の対応を進めます。

・特別利害関係者との取引解消
・関係会社の整備
・組織運営体制の整備
・コンプライアンス遵守体制の整備
・社内ルールの整備と運用
・事業計画の精度の向上
・財務会計基準への対応
・主幹事証券会社の選定

特別利害関係者との取引解消

IPOして株式を公開すると、会社は私的なプライベートカンパニーから、社会の公器としてパブリックカンパニーになります。そのため、特定の株主、役員等という特別利害関係者の利得に繋がるような取引は排除しなければなりません。これには、特定の株主、役員等との間で行われる不透明な取引や不適切な価格での取引を見直し、市場や第三者と同等の条件での取引に改めることが含まれます。

既に行われている特別利害関係者との取引は、原則として取引を解消し、その上で、今後、特別利害関係者との取引を実施する前に発見する体制を構築する必要があります。

関係会社の整備

関係会社の整備では、グループ内の企業群を最適化する必要があります。過去の成長における経緯の中で複数の企業を設立している場合もありますが、存在理由が明確でない、又は、親会社の一事業部門的な動きをしているグループ会社については整理を行う必要があります。グループ内に複雑に会社が存在している場合には、内部管理体制の整備が難航するだけでなく、監査法人による監査や証券会社による審査も時間とコストを要することになるため、IPO準備のスムーズな進行に影響を与える可能性があります。更に、得てして企業不祥事は親会社の目の届きづらい子会社の方で発生しやすいことからも、グループの企業群を最適化する必要があります。

組織運営体制の整備

上場企業は、会社を所有する株主と、会社を経営する経営者が同一ではなくなる、所謂「所有と経営の分離」がなされている状態となります。そのため、会社の経営は、取締役会を中心に執行を行うこととなります。

取締役会は、会社の経営を行う業務執行取締役と、業務執行取締役の職務の執行状況を監督する役割を持つ社外取締役と監査役で構成される必要があります。まずはこの取締役会を適切な人選で構成することが必要となります。
その上で、役職員の職務執行をする組織体制を企業を成長させるアクセルとしての部門とコンプライアンスを遵守した運営をするためのブレーキとしての部門をバランスよく整備する必要があります。特に、IPO準備のプロセスにおいては、ブレーキ部門としての強化を図るプロセスになります。
組織的な経営をするためにもワンマン経営の鍋蓋型組織ではなく、組織的な意思決定が成されるピラミッド型組織を目指す必要があります。

コンプライアンス遵守体制の整備

コンプライアンスという概念は幅広いですが、特にIPO準備においては、パブリックカンパニーとして高い水準が求められます。特に、証券取引所においては、反社会的勢力との取引を防止する体制を整備することや、インサイダー取引をはじめとした反市場的な取引を防止する体制を整備することが求められています。そのためには、取引開始前に反社会的勢力に該当しないかをチェックすることや、インサイダー情報を始めとした重要情報が漏洩しないための情報を管理する仕組みを社内で構築する必要があります。

社内ルールの整備と運用

IPO準備を始める企業の多くは、事業運営を機動的にするため、また、リソースの不足が原因で、社内規程やマニュアルの整備が十分には行われていないケースが多いです。しかし、IPOを目指すにあたっては、社内で守るべきルールを明文化し、それを遵守する運用があります。得てして、規程やマニュアルが絵に描いた餅のようになってしまうことが散見されることからも、自社の実態に沿って規程やマニュアルを作成し、定期的な見直しが行われるような体制を構築することがIPO準備のプロセスでは求められます。

事業計画の精度の向上

N-3期より事業計画の策定と予算と実績の差異分析を行っている状況になっていると思われるものの、さらに予算策定の精度を向上させる必要があります。証券取引所は、業績予想の修正のルールとして、「売上高で当初計画の±10%」「各段階利益で当初計画の±30%」又は「赤字計画が黒字になる or 黒字計画が赤字になる場合」には業績予想の修正として速やかに適時開示することを求めています。また、上記の基準に限らず、当初計画の業績予想を修正することが投資者保護の観点から有用であると判断される場合には、速やかに適時開示することを求めています。
そのため、事業計画の精度が粗い場合には、上場後に業績予想の修正が繰り返されるおそれがあり、その結果、株式市場に対して混乱を来す会社になる可能性があることから、事業計画の精度の向上が常に求められることとなります。

財務会計基準への対応

IPO準備を始める前の会社は、日本の税務に対応するための税務会計で決算を組んでいることが一般的です。しかし、IPOすると海外の投資家や国内の類似する会社どうしの比較可能性を担保するために、財務会計基準による決算を組むことが求められます。上場企業で認められている財務会計基準は、国際会計基準(IFRS)と一般に公正妥当と認められた会計原則(J-GAAP)となっています。代表的には、連結決算への対応、発生主義会計の摘要、収益認識基準、減損会計基準、資産除去債務、税効果会計等を摘要した会計処理をすることが求められます。

主幹事証券会社の選定

主幹事証券会社は、IPOするための指導を行うコンサルティング業務、上場企業としての適切性を審査する証券審査業務、株式市場で流通させる公開引受業務を行います。主幹事証券会社は、監査法人によるショートレビューや期首残高監査の結果を見ながら主幹事契約を締結するため、N-2期中に契約を締結することが多いです。
主幹事証券会社によるコンサルティングを隔週から月1のペースでミーティングを行い、課題提示と解決を超高速で進めることが必要となります。
主幹事証券会社が提示する証券審査に向けて提示されたロードマップに沿ってスケジュール通りに付いて行くことができれば、決算が明けるとN-1期を迎えることができます。

N-1期(直前期)

IPOの直前期 N-1期では、以下に示した5つの項目の対応を進めます。

・申請書類の作成
・内部管理体制の運用
・中期経営計画と資本政策の見直し
・45日開示のトライアル
・証券審査への対応

申請書類の作成

上場申請書類は、上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)とプライム市場・スタンダード市場においては上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)をグロース市場においては新規上場申請者に関わる各種説明資料を作成することになります。
上場申請書類は、数百ページに及ぶ申請書類となり、その内容は正確かつ実態の伴った内容である必要があります。そのため、記載内容の裏側にエビデンスとなる資料も準備する必要があることから、多大な労力を要することとなります。

専門性が高く、工数も掛かるプロセスであることから外部の会計士やコンサルティング会社を用いることで効率的に作成することが可能となります。

内部管理体制の運用

N-1期においては、N-2期期間中に整備したガバナンス体制やルールが1年間を通じて遵守できるかをモニタリングする期間となります。例えば、取締役会や監査役会が毎月開催され議事録や説明資料が適切に作成されていること、内部監査が全拠点・全部門に対して実施がされていること、業務フローやルールが変更された際に遅滞なく規程やマニュアルが変更されていること、意思決定が定められた会議体や稟議フローによって決定されていること等です。
これらを証券会社の公開引受部門のコンサルティング業務や監査法人による内部統制の有効性の監査手続き等を通じてモニタリングされることとなります。

中期経営計画・資本政策の見直し

上場申請期(N期)に入る前に中期経営計画と資本政策の見直しを行います。
特に、IPO前の株主構成を決める資本政策は上場申請期(N期)はIPO時の株価に影響を与える可能性があり、実務上は難しい可能性があるため、N-1期中に実行することを推奨します。
また、中期経営計画については、IPO時に短期目線でなく中期的な目線で投資対象として投資してもらうためにも重要な係数計画となることから、N-1期中に立案し、その進捗をN-1期の決算とN期の進行期間でモニタリングできるようにする必要があります。

45日開示のトライアル

IPOすると直後の四半期決算から、45日での決算開示が求められます。そのため、N-1期の第2四半期を目安に45日開示が財務会計基準に基づいて確定して、開示資料も作成の上で開示できるかをトライアルすることになります。
決算数字の開示は投資家保護の観点で重要な開示であることから、財務経理の体制が整備されておらず45日開示が難しいと判断された場合には、体制整備がされるまでIPOスケジュールや審査プロセスは中断することになるため、N-2期以前から財務経理の体制を構築し、決算早期化を図る必要があります。

証券審査への対応

証券審査の進め方は主幹事証券会社ごとに異なるものの、中間審査と本審査の2回の審査プロセスを踏む場合と、1回の本審査の期間を長く取りながら審査する場合があります。いずれの場合でもN-1期の下半期を目安に証券審査が開始することとなります。
証券審査においては、書面による審査となります。そして、質問状が送られて来ると、定められた期限内に回答書を作成し、その回答のエビデンスも合わせて提出する必要があります。目安としては、全3~4回の質問となり、全300問程度の質問状を回答することとなります。各質問状の回答は、2週間程度で回答する必要があることから、N-1期の後半からは多大な工数を証券審査の対応に割くこととなります。

申請期

IPOの申請期では、以下に示した4つの項目の対応を行います。

・申請書類とロードショーマテリアルのクロージング
・上場申請と証券取引所の上場審査
・上場承認とロードショーの実施
・新規上場(IPO)

申請書類とロードショーマテリアルのクロージング

上述の上場申請書類であるⅠの部、二の部又は各種説明資料をクロージングした上で、証券取引所に上場申請を行うこととなります。一般的には、本決算後の株主総会が終わり次第、速やかに申請を行うことになるため、上場申請書類には本決算の内容も反映をした上で作成し、提出することとなります。また、Ⅰの部については、上場時に有価証券届出書(≒有価証券目論見書)となり、その際には直近四半期決算まで反映する必要があります。

また、上場承認後には投資家との対話である「ロードショー」を行うことになります。その際には、会社説明資料として「ロードショーマテリアル」を作成して臨むことになります。一般的には、パワーポイント等で作成したプレゼン資料となることから、デザインや数字、記載内容も整えた状態で、上場申請書類と合わせて提出することになります(そのため、制作開始は実務上はN-1期から開始します)。
グロース市場に上場する場合には、「成長可能性に関わる説明資料」を上場時に開示する必要があります。

上場申請と証券取引所の上場審査

上述の各種の上場申請書類がそろった段階で、証券取引所に対して上場申請を行います。これにより、証券取引所は正式に上場申請を受付けて、上場審査の手続きの段取りを開始することとなります。

証券取引所の上場審査は、主幹事証券会社による証券審査と類似した流れで、質問状の提出がされ、それに対して回答書とエビデンスを添付して回答するというプロセスが行われます。この審査を通過することが出来れば、上場承認となります。

上場承認とロードショーの実施

証券取引所の上場審査が完了し、上場承認されると、「新規上場承認された会社」として公衆に縦覧されることとなります。その上場承認から上場日までは約1カ月程度となっており、その間は上場前に投資家に対して自社の株式への投資を勧誘することができる期間となります。この期間に機関投資家を中心に1on1等のミーティングを設定してプレゼンを行うというロードショーを実施することとなります。人気のある会社では約1カ月の間に数十件のミーティングを行うことから、経営者たちはこの間は、予定を一切入れずにロードショーのミーティングに時間を割くことが多くなります。このロードショーにより投資家から投資の意向表明を受け、その意向を踏まえてブックビルディングが行われ、IPO時の公募価格が決定することとなります。

新規上場(IPO)

上記のプロセスを全て終えることで、ついにIPO準備のプロセスを満了し、新規上場の日を迎えることとなります。そして、9時に株式市場が開くタイミングで初値が付くのを緊張して待つこととなります。また、証券取引所においてIPOを祝うセレモニーを行い、上場の鐘を鳴らす歓喜の瞬間を迎えることとなります。
IPO準備のプロジェクトは非常に苦しく長いプロセスであるため、喜びはひとしおで、経営者や携わったプロジェクトチームはもちろんのこと会社を共に成長させた社員やステークホルダーと共に、祝福を共有することができるかけがえのない日となります。

まとめ

IPOのスケジュールと実施する内容の代表的な内容を紹介させていただきました。
しかし、この記事だけではIPOで実施する内容の100分の1も記載をし切れていないくらい、IPO準備で実施すべき内容は複雑で専門的で膨大です。また、IPOを目指すためには、ガバナンス体制を整備するために役員の増強、内部管理体制の整備のための自社社員の採用、専門的な内容をサポートしてもらうための外部コンサルティングの活用などで数千万円という追加コストがプロジェクト期間中で発生することとなります。

IPOを無理に進めようとするあまり、企業体力を削ぐことになりかねないことからも、IPO準備を進めるのか否かも慎重に判断をする必要があります。
IPOした経営者からの情報だけを聞いて進めたり、やみくもにIPO準備を進めたりするのではなく、まずはIPOすること自体についても専門家に相談をしてみることを推奨いたします。

IPOに向かうか否かに限らずとも、事業を進める中では勤怠管理を適切に行い、貴重な人的資本を活かすことが事業成長においては重要です。人的資本を有効活用し、自立した事業成長をするためにも労務分野におけるツールの一つとして、PCログ機能のある「ミナジン勤怠管理」をぜひご利用ください。

https://minagine.jp/

記事監修コメント

私が監査法人から転職して、IPO準備会社でプロジェクトを一任されてIPO準備を推進した2014年の当時は、まだSaaSサービスは多くなく、出勤簿もExcel、稟議書も規程もWordで作成していました。SaaSサービスが普及した今の時代なので積極的にSaaSサービスを利用して効率的なIPO準備を進めることを推奨します。また、IPOプロジェクトは専門的かつ難易度の高いプロジェクトです。社内で実務を担当したIPO経験者は少ないため、多くの会社で採用が難航しています。採用が難航したり悶々と悩む時間がもったいなかったりという会社様は弊社が提供するIPO準備のDXツール「はじめのIPO(はじめのいっぽ)」も是非ご利用をご検討ください。

アイスリー株式会社 代表取締役社長/公認会計士
金 誠智(キム ソンジ)

有限責任監査法人トーマツで監査、IPO支援、トーマツベンチャーサポート(株)に従事。(株)リプライスに転職し、オーナー企業のIPO準備を実施。(株)カチタスからのM&A提案を受け入れ、グループ会社となる。
(株)カチタスのIPO準備室室長としてグローバルオファリングによるIPOを経験。上場時時価総額は650億円。その後、年間200件を超える機関投資家とのIR-MTGを実施。最高時価総額3,850億円。2020年9月にアイスリー(株)を設立。IPO準備の効率化を支援するDXツール「はじめのIPO(はじめのいっぽ)」を提供中。


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https://i-3.co.jp/hajimeno-ipo/