株式会社ミナジン 社会保険労務士/高橋 昌一

「労務課題を解決する手法のひとつ」 としてのシステム活用 | 勤怠システムを導入するということ。それは、「就業に関する自社のルールを新たなシステムにリプレイスすること

はじめに

現代の労働法の端緒とも言える、ブルーカラー(工場労働者)を対象とした「工場法(1916年施行)」が施行されてから約100年、そして、「労働基準法(1947年施行)」が施行されて70年以上が経過しました。この間、労働基準「法については幾度となく改正が行われ、今般、働き方改革の名のもとに2019年4月より改正労働基準法が施行されております。
本改正の目玉は何といっても「時間外労働の上限規制の罰則付き法令化」であり、今ほど「労働時間の管理」の重要性が注目されていることは過去無かったのではないかと思います。

働き方改革の目的

近年、日本の労働力人口は減少傾向にあり、この流れは止めようもありません。
今般の働き方改革では、我が国の国家的課題である「少子化」そして「超高齢化社会の到来」からくる「労働力減少社会」へ歯止めをかける対策として「多様な働き方」が出来る社会の実現が掲げられております。
この「多様な働き方」の実現こそが、育児や介護で離職を余儀なくされた方、再就職をあきらめた方、また定年退職された方等の潜在的労働力とでも呼ぶべき人々が、再度、働ける受け皿となると考えています。

労働時間管理の目的

多様な働き方の実現のためには、日本の複雑な労働時間法制を正しく理解し、受け皿としての制度作りをする必要があります。まさに、労働時間への理解と管理方法が重要であるということになります。
一概に「労働時間の管理」と言っても、その目的は多岐にわたります。
以下に列挙すると

①36協定に定める時間外労働の上限を遵守するため
②法令に準拠した、適正な給与計算を行うため
③安全衛生法に定める長時間労働者の医師の面談制度その他社員の健康管理のため
④離職率の低減、採用市場における優位性の担保のため

等が挙げられます。
この①~④の目的は、企業にとって優先順位なく、全てについて取り組まなければならない重要な課題であると考えています。
その為にも、勤怠データ自体を記録していないことは問題外で、紙ベース、エクセル、タイムカード等でのアナログな労働時間の記録では、既に、この課題に対応できないと考えます。
そこで、今、勤怠システム導入又は導入の検討を進める企業が激増しています。

勤怠システムの選定

SaaSビジネス(勤怠システム、人事評価システム等)の企業で働く社労士として、通常は、各企業様からの労務相談対応や就業規則の制定・改訂等の業務行っていますが、勤怠システムの導入に関わることもあります。
色々な企業様への勤怠システム導入に関わり痛感していることがあります。
現時点において勤怠ステムは、あくまで社内に存在する制度を効率的に運用したり、各種データを蓄積して分析したりするためのツールとしての役割が中心です。
勤怠システムは単なるツールであり、記録媒体であり、勤怠システム自らが何かを考え、企業の課題を解決し、変革をもたらしてくれるわけではないということです。
企業の課題を解決し、変革をもたらすのは、あくまでも「人」であり、今後、どんなに勤怠システムが進化したとしても、それは変わらないと考えています。
そういった観点からも専門家である社労士のサポートが求められていると感じています。

そうであるならば、勤怠システムの選定やその利用目的については

①今現在、企業が抱えている課題解決に資するシステムなのか
②労働時間、休憩、休日のデータの利用目的は何なのか
③勤怠システム導入が成功した時とは、どんな状況、環境を示すものなのか

この様な観点をもち、更には、ベンダーが、そのシステムを何のために開発し、販売しているのか等も見極めたうえで、選択すべきではないかと考えます。

勤怠システム導入のポイント

勤怠システムの導入とは、就業規則等に規定されている就業に関するルールを、そのまま、システムに載せる作業となります。
就業規則や賃金規程が複雑でシステムによる効率的な管理ができない場合、導入を諦めてしまったり、規程変更をせず無理に導入して、かえって手作業が増えるような運用もよく見かけます。
全てをシステムで対応するのではなく、就業規則や賃金規程を改定し、システムが無理なく運用できるような労務管理ルールに変更するという選択肢が考えられます。
その際、労働基準法や労働安全衛生法に抵触しないように作業を進める必要が出てきます。この作業を主体的に行える知識や資格を持っているのは、社労士ということになります。

その為に、最初にやるべきこととして、現状、就業規則等明文化されている就業ルールが法令に準拠したものか、そして、その就業ルール通りに運用されているかを確認しましょう。よく「規程にはこう書いてあるが、実は、違う運用をしている」ということが見受けられます。
就業ルールに、法令上の違反がないか、そして、就業規則等の明文化したルールと運用の乖離がないかの確認が重要となります。
その上で、次に複雑なルールやワークフローになっていないか、又は形骸化していないかを見直しましょう。管理をしたいがために、申請・承認等を複雑なワークフローにして、結果として、形骸化していることが、よく見受けられます。シンプル、かつ効果的なワークフローを実現しましょう。
そういう意味でも前述した①~③の観点を持つことは重要ですね。

労務課題解決のための勤怠システム

① 手作業で行う残業時間の計算

就業形態と時間計算ルールをあらかじめ設定することで、社員が出勤・退勤を打刻するだけで適正な勤怠管理履歴が完成。手作業の残業計算は不要となります。


② 勤怠未記入や有休の管理不備発覚時の、当人と上司への確認作業
勤怠の未記入はアラートを出し、本人や上司が気づくようにすることで抜け漏れを防ぎます。また有休休暇だけでなく、夏期休暇など付与ルールが決まっているものも自動管理できるため、管理不備を起こすことがありません。


③ 残業超過が起こらないようにするためのこまめな総労働時間チェック
残業時間の上限が近づくとアラートを出すよう設定できます。本来上司に求められている「管理監督者の役割」のサポートにもなり、人事だけではなく上司の管理負担減にもつながります。


④ 給与計算にあわせた労働時間の仕分けやチェック作業
勤怠管理履歴ができた時点で、通常勤務、時間外勤務、休日出勤などは仕分け済。そのまま給与計算に転換できます。さらに、人事労務部門が全拠点の勤怠状況をリアルタイムに確認したり、上長による部下の勤怠状況の把握が可能となります。時間外労働や休暇取得、遅刻実績、時間外勤務申請内容などを一覧把握することで、注意やケアが必要な社員を早めに見つけることもできます。

⑤ 休日出勤(振替休日と代休)の管理
法令でも複雑な振替休日と代休に関しても、振替出勤と振替休日を同時に申請できたり、振替休日を後で指定するなど柔軟な対応が可能となります。代休についても設定により付与可否を制御できるため、振替休日と代休の申請で判断に迷うことなく運用することができます。振替休日については手当化の機能も実装できています。

⑥ フレックスや変形労働制への残業時間管理
法令要件である日、週、変形期間のトリプルチェックをせず、シンプルな運用と設定により残業時間の管理が容易になります。変形労働の課題は複雑な残業管理ですが、この業務効率化と工数削減が期待できます。タイムカードを部署(就業形態)ごとに管理できるため、固定勤務やパート社員と区別した管理も可能となります。例えばフレックスでも残業届を証跡として提出するような運用ルールにも対応できるよう設計されています。