パネルディスカッション「上場を実現させてきた企業の組織創り」書き起こしレポート

2019年4月22日、「”元東証上場推進担当役員”が語る!上場を実現する”成長を加速させる組織創り”とは」と題する、共催セミナーが行われました。本セミナーの第3部・パネルディスカッションの内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー 村田 雅幸 氏(パブリックゲート合同会社 代表社員)
森田 穣治 氏(社会保険労務士法人みらいコンサルティング代表社員/特定社会保険労務士)
川本 周 氏(株式会社アトラエ)
モデレーター 佐藤 栄哲(株式会社ミナジン代表取締役社長)

佐藤:続きまして、今からパネルディスカッションをさせて頂きます、今お話頂いた2人の方に加えまして、村田さんに入って頂きます。

まず、村田さんのご紹介をさせて頂きます。1991年より27年間、証券取引所に勤務。2003年に最年少で執行役員に就任し、ナスダックジャパン市場の撤退からヘラクレス市場立ち上げの責任者を務められました。その後、上場審査部門の担当役員を務められ、2010年には、国内初となる証券取引所のTOBを行い、ヘラクレス市場とJASDAQ市場統合の上場制度の設計や市場創設業務の陣頭指揮をとられました。2013年には、東京証券取引所の執行役員としてマザーズ市場などの上場推進業務に当たり、これまで約500社のIPOの上場誘致や上場審査を経験されていらっしゃいます。2018年、パブリックに成長を目指す経営者とともに歩むパートナーとなることを目的に、PUBLICGATE合同会社を設立。株式会社スマレジ、ちょうどこの間上場しましたけれども、複数のベンチャー企業の社外役員なども兼任されていらっしゃいます。

村田さんと私は十数年前から、ちょっとこういう言い方をするのも失礼なんですけれども、友人として一緒に山登りをしたり、一緒に食事をしたりという仲で、たまたま私の高校の先輩、これは本当にたまたまなんですけれども、でいらっしゃいます。素晴らしい方で、要は「ミスター上場」「ミスターIPO」みたいな方なんですね。あまりにも若く執行役員に就任されていたのでまだ50歳になられたところなんですよね。普段接していると人格者だなと感じているんですけれども、そういう方が、あちら側の世界で上場を支援する、あるいは審査するという、立場でいてくださって良かったなぁと個人的には思っていました。そういう地位を捨ててまで、こちら側の世界に来られて、まだ1年くらいしか経っていないんですけれども、今日はその村田さんから、色んな話をお聞き出来たらいいなという風に思います。ではお三方、壇上にお上がりください。

上場できた要因・できなかった要因

佐藤:ではですね、今から約1時間、お三方によるパネルディスカッションを始めさせて頂きたいと思います。改めまして宜しくお願い致します。

佐藤:では、今まで御二方のお話をお聞きさせて頂きまして、ハーズバーグの2要因理論を用いて、進めさせて頂ければと思います。人事の方でしたらお聞きになられたことがあるかと思うんですけれども、モチベーションは2つの要因から成り立っているという理論を作ったのがハーズバーグっていう心理学者なんですけれども、彼は2つの要因のうち、1つが衛生要因と呼んでいます。これは違う名前では不満足要因という風に言われております。

この不満足要因を解消しても満足にはならないんですね。不満足要因を排除しても、不満足要因が低減し満足要因は増加しない、そういう要因を衛生要因と言います。一方で、動機付け要因というのが、もう一つの要因でして、これは別名、満足要因と言われております。この2つは皆さん、何となく人事をやられていたり、会社を経営されている方々なので、実感値として持たれていると思います。この満足度要因というのは、満足要因が充足されている時に満足要因が増加し、充足されていなくても、満足要因は提言しないという理論です。まさに今日はその2つの衛生要因と動機付け要因の視点からお話をして頂いたらなぁっていう風に思っております。

それでは最初の質問を村田さんにさせて頂きたいんですけれども、約500社の上場を審査、あるいは推進する立場として、見られてきた中で、これらの要因が原因で、「こういうところが良かったから上場できたなぁ」とか、逆に「ここのところがうまくできてなかったから上場できなかったのかなぁ」とか、そういったような会社様、実名はいらないんですけれども、何かそういう事例みたいなものをお話頂けたらなぁと思います。

村田 雅幸 氏(パブリックゲート合同会社 代表社員)

村田:村田です、宜しくお願い致します。佐藤さんの方から過分な紹介があり(笑)、どうしようかなぁと思っているんですが、まぁ秘密の話でもないですけれども、さっきご紹介があったように、いろんな企業をですね、証券取引所というプラットホームから拝見するにつれ、僕もあとで質問してみたいなって思ってたんですけど、会社って人の集まりじゃないですか。で、よく経営成功の法則とか、失敗のパターンとか、上場の成功・失敗みたいなのを証券取引所にいるときも、「体系化できないかなぁ」というのは自分のライフワークとしてずっとあったんですけれども、色んなケースがありすぎて、あまり綺麗に仕分けできないなぁと思いながら今日に至るんですね。

さっきもご紹介ありましたけれども、今まで証券取引所という立場で色んなベンチャーに書面上ちょっとディープな書類も出して頂いて面談させて頂くケースもあれば、フロントで上場の開拓をやっていたので、審査権限がない立場で少し柔らかい経営情報に触れながら企業を見ている立場もあったんですけれども、今は証券取引所の枠を出て、一個人としていろんな企業に関わっていて、本当に会社経営って大変だなぁと思うんですね。

成功のパターンとか失敗のパターンとか本でもいっぱい出てますし、セミナーも行きましたし、色々話を聞いたんですけど、なんだかなぁと思って、あんまり結論ないんですが結局は人の集まりなので、正直答えはないんじゃないかなぁというのが今日なので、本当は「こうすれば上場できますよ!」とか「これをすると上場失敗するから注意して下さいね」とお伝えできればいいんですけど、私自身が暗中模索のまま証券取引所の生活を経て、現在色んなベンチャーに関わっているというところになります。

やっぱり人の集まりなので、これは主観でしかないですけど、オフィス入ったときとか、経営幹部にお会いした時に、何となく「空気悪っ」って思う時があるんですよね。皆さんも友達の家庭に行かれた時に、「あったかい家庭だなぁ」とか「ちょっとギスギスしてる家庭だなぁ」っていうのは、家族の関係性とか、建物の造りで何らかの印象を得られることがあると思うので、私もいろんな会社さんにお邪魔してる中で、やっぱり伸びてる会社はまあ明るいし、元気があるし、伸びてない会社は暗いし、元気がないしっていうのはひとつ、ものすごく抽象的ですけど、傾向としてあるかなぁと思います。

佐藤:もう少し突っ込んだ話をお聞きしたいです。例えば1つ目の不満足要因、上場の時の審査をされていた時に、不満足要因、例えば私も人事の会社で私も色々な会社の人事を見させて頂いてますけれども、例えばサービス残業とか、未払い賃金、長時間労働と低賃金で、これが自社の商品やサービスの差別化要因になっちゃってる、要はちゃんと法律通りに給料を払ったり、労働時間を守ったら、自社のサービスや商品が成り立たないみたいな、そういうケースがあります。それを是正して上場をするとなると、「そんなんやったらいらんわ」みたいな、要は商売あがったりになってしまう会社とかはどうなんでしょうか?

特に労働集約型のビジネスをされているような会社が法律を守って、付加価値の高い商品・サービスを提供している場合は、それを払ってもあり余るほどの利益があればいいだけなんですど、でそうでない場合は、これ払ったら赤字転落みたいな、そういうケースっていうのもちょっとあるんですけど、村田さんが審査とかをされてた頃に、そういう会社ってたぶん村田さんのところに行く前の段階で淘汰されてるかもしれないんですけど、実際そういうような事例というのはありますか?

村田:そうですね、上場できるかどうかという話と、上場できたとしてどういうフェーズで経営判断として上場するかという2通りあると思うんですけど、まず前段の上場できるかできないかっていうのは、すごく業種とか将来性とかすっ飛ばして言うと、売上10憶、経常利益1億あったら普通に上場のテーブルには乗ると思うんです。実際それより成長性があると市場で評価されて、小さい規模で上場された会社さんもあるんですけど、なぜ取引所がいろんな審査項目を設けているかっていうと、そこは利益の質を見ているんですね。

経常利益が1億円あったときに、佐藤社長が仰ったような未払い、労働債務に限りませんけれども、未払いの債務とか、色んなリスクを聞いたときに、そもそもビジネスとして成り立っていないようなものは当然、証券会社さんの段階ではねられて上場しませんし、証券取引所でも結局何を見てるかっていうと、利益の絶対額もありますけど、質を見てるってことになります。その数字の質がいいということであれば、持続性・再現性があるというような発想で審査していますね。

約500社の上場審査の中で印象に残っている企業

佐藤:なるほど。それでは次に動機付け要因、満足要因の方なんですけど、今まで500社の上場に限らず、要は上場できなくとも素晴らしい会社ってたぶん山ほどあると思うんですよ。特に村田さんが印象に残ってる会社様ってどういうところがありますか?実名はなくていいんですけど。

村田:え、単に私が印象に残ってる?

佐藤:印象に残ってる、要はすごくこう、アトラエさんもその一つかもしれないですけども。

村田:皆さん今日どんな方がおられるとか、どういうきっかけでここにおられるか全然分からないので、何とも申し上げようがない部分もあるんですけど、僕はやっぱり、上場は素晴らしいと思ってるんです。なぜ素晴らしいと思ってるかというと、スポーツに当てはめて考えるとよく分かると思うんですけど、来年オリンピックありますけど、スポーツ選手で「私はオリンピック目指してません」って宣言する人っていないと思うんですよ。そもそも、スコア的に無理なんで、あえてコメントしないって人はまぁいるかもしれませんけど、やっぱりスポーツ選手である限り、日本代表として、オリンピックという大きな舞台で、大観衆の目に触れて、記録を残せるようにチャレンジしたいと思うのは当然のことだと思うんです。こと経営に置き換えたときに、皆さん頑張って経営しているけれども、全部の会社が社会から陽が当たるわけじゃないじゃないですか。広告出してWebで紹介されるとか、雑誌に載るっていうのもちょっと嬉しいかもわかりませんけど、そうじゃなくて本当に社会全体の目として、「あなたオリンピック出ていいよ」って言われるレベルって、今でいうと上場くらいしかないんだと思うんです。

200~300万社ある中で私もまぁ小さな会社の端くれですけど、アトラエさんみたいにやっぱり3700しかない上場会社になるっていうのは、創業された方からすると「人生の意味そのもの」、自分が0から作った会社とか、誰も知らない、潰れそうなときにジョインされた方が、世の中に認められる喜びっていうのは本当に、どこの会社っていわないけれども、その上場セレモニーというものに僕はこう、すごく人生の喜びを感じるんですですね。で、それを仕事にしようと思ったんですけど…まぁ印象に残ってるって意味で言うとやっぱり、上場前からお付き合いあった社長さんとか、上場セレモニーのときに先代の写真をポケットに潜まれたり、創業者の遺影なんかを持ってセレモニーに来られたときは、その前振りの話を知ってるときなんかは、ちょっとうるっとするとかはありますね。

あとはスポーツでもそうですけど、大きな舞台に立って全員が全員、金メダルを取れないのと同じで、上場してすごい残念になってしまった会社さんもありますし、思いのほか伸びた会社さんもありますし、それって何かこう、事業の価値と経営の価値という観点からすると、成長する業界にいるっていうのはすごく得な気もするんです。ぶっちゃけ何がそんなにすごいのかよく分からなくてもマーケット伸びてたら行くじゃないですか。ITの先頭集団にいたり、不動産のトップランナーにいたりすると。だから、皆さんができることはたぶん、経営力を磨くってことくらいしかできないと思うんです。経営力と、あとは掛け算でどれだけ伸びるマーケットにたまたま居合わせるのか、あるいはピボットするのかというのが大きいと思いますね。

「ルールをちゃんと適用する」 vs 「ルールは最小限でいい」

佐藤:ありがとうございます。続きまして村田さん、先ほどお二方のご講演を聞かれたと思うんですけれども、IPOの視点から、それぞれ森田さんと川本さんのお話で、何か質問とかございますか?

村田:話を聞いてて、すごくいい組み合わせだなぁと思ったのが、森田さんはやっぱりこう、ルールをちゃんと適用されるお仕事をされてるじゃないですか。かたや川本さんは、ルールは最小限でいいみたいな話があったり、すごく対照的なお二人だなと思って聞いていたんですけども、これは森田さんと川本さんに一言ずつコメント頂きたいんですけど、組織ってやっぱり日々変わっていきますよね。50人の組織が100人になり200人になり…さっきも「時間が経過するとエンゲージメントが下がる」というお話がありましたけど、若いときはわいわい、サークル的にやるのが楽しいけれども、それだと30代、40代、50代となっていったときに変化も当然あるんだと思いますし、そのあたりちょっと対極な立ち位置でお仕事されているので、お互いに対して何かこう質問とか印象とかあったんじゃないかなと思うので、その辺何か軽く会話して頂けるとすごい興味があるなぁと思います。

森田:ありがとうございます。最初の動機付け要因・満足要因と、いわゆる衛生要因的なところが私が話をした、いわゆる労務コンプライアンスの話ですね。できて当たり前で、できていないと不満になるという話なので、私も本当にこの組み合わせは偶然かと思うんですが、すごくいい組み合わせだったなと思っています。私の仕事は確かに法令なのですが、労務コンプライアンス、法令順守といっても、ここに倫理観の話もあるわけですね。

どうしても、もっとこう会社のために色々やってあげたいんだけれども、ことIPO労務というところの改善に関わっていると、どうしても審査をクリアしなきゃいけないということもあると思うんですね。本当はもっとこういう風にやったら自由に、長く働けるのになぁっていうのを思いながらも、どうしてもやっぱり審査上、越えなきゃいけないハードルを意識して「ここまでやりましょう」と、少し硬くなるといいますか、そういう仕事をなので、逆にすごく羨ましいです(笑)。

川本:一応我々の会社も「ルールはない」と申し上げたものの、上場にあたって色々ルールができたみたいな側面もありますんで、ルール無視してやっているわけではないというのはあります(笑)。ただですね、本来我々が大事にしたい哲学に対してルールというものが邪魔をするのであれば、ルールすら変えちゃったらいいんじゃないかっていう考え方があるんで、専門家のご意見も頂きながらですけど、本当に「こうなっちゃアウトじゃない」ラインで、変えれるルールは変えていったろっていう形で、今やっています。で、それが誰にでも分かる形で一つ世界に対して発信できれば、またいいルールになるんじゃないかなという部分もありまして、そこの当事者と思って、我々はやっているという形ですね。なのでルールを破ることが別に目的にはなっていないっていうのが一つあります。ルールは守るものだと思っています(笑)。

性善説の経営は成り立つか

村田:佐藤さんにご意見頂きたいんですけど、上場審査っていうのははっきり言って性善説では成り立たないわけです。なので性悪説寄りに「できてますか?」ってのをチェックしていくんですね。ただまぁ、労働法に関して言うと、労働基準監督署が求める以上のことを証券取引所が求めることはないので、それはまぁ単純に法律を守ってくださいねってだけの話なんです。個人情報の保護もそうだし、消防法とかもそうだし、たくさんの法律がある中の一つとして守ってくださいっていう感じではあるんですけど、性善説的な経営って…どうなんですか?まぁ何が性善説で何が性悪説でってバッサリ仕分けできないかもしれないですけど、僕は率直に言うとね、今はいいけど、それで10年、20年行ったら、逆に言うとすごいなぁっていうか、どっかで舵を取らないといけないときが来るんじゃないかなぁと思って聞いてたんですけど、何か人事の仕事をされててその辺、コメントありますか?

佐藤:…(川本さん)何かしゃべりたそうな…(笑)。

川本:(笑)そうですね、よく頂くお言葉です。非常にありがたいなと思っていまして、だからこそ我々はやるんだってところを持っている次第ですね。実はお話できていなかったんですけど、我々の会社におけるビジョンっていうものは、「世界中の人々を魅了する組織・会社を作る」というところで、それはまぁ事業的な側面と、組織体系的な側面とで、それこそ世界中の人々を魅了する会社を作ること、これが僕らの目指しているところなので、まさにチャレンジしたい領域っていうのが一つですね。あと実はですね、2003年創業で、創業16年を迎えてまして、最近出来上がった新興ベンチャー等と、ご紹介頂くんですけど、年次はしっかりそれなりに行ってるような会社ってところでして、ようやく最近注目して頂けるようになってこれたという認識なので、まぁここからさらにという風には思っています。…ちょっと一旦言いたいことを先に言っちゃいました(笑)

佐藤:森田さん、何かありますか?

森田:…大丈夫です(笑)。それよりも、村田さんから最初にお話があった中で、印象的な会社のお話をされてたんですけど、私たちも、IPOの労務分野からですけれども、やっぱり色々な経営者の方と関わってきました。その中で一番ひどかったのは、その経営者の方と労務の話をしていた時に、「当然残業代は一銭も払いたくない。もっと言えば従業員には、僕の邪魔をしてほしくない」、要するに「僕がやりたいことを実現するためだけに働いてくれればいい」「言った通りにやってくれればいい。何も期待していない」と、そう言っている経営者の方がいました。ただ、やっぱり数年後その会社はなくなりました。やっぱりIPOの労務の支援をしていて、経営者の方と最初お話すると、「この経営者の方は手伝ってあげたいな」「この経営者の方は無理だな」というのは正直あります。要は従業員をこき使いたいだけだったら私たちは、別に完全に労働者寄りで仕事をしているわけじゃなく、どっちかっていうと経営寄りで仕事をしているんですけれども、経営者の悪事に手を貸すようなことをしたいわけじゃないと感じたことはありますね。

佐藤:僕もですね、性善説とか性悪説という話があったと思うんですけど、今はいろんなことが変わってく過渡期かなと。ほんの少しくらい前まで、先進国のアメリカでも奴隷制度みたいなのがあったわけですよね。今はもちろんそんなことはないのが当たり前ですけど。だから当然ながら、ルールっていうのは結局、時代の中でどんどん変わっていくものだと思うんです。日本はもともと戦後、終身雇用とか、年功序列とか、僕、実は20代の頃は商社マンやってて、グローバルで仕事してたんですけど、年功序列とか終身雇用ってナンセンスの一言なんですよね。

例えば経営者は森田さんからお話があったように、社員を奴隷のように扱わないことが当然、僕は一番良くて、社員の方は会社の犬にならないっていう、ごくごく当たり前のこと何ですけども、日本ってそういう年功序列とか終身雇用とか、「就職」ではなく「就社」で、自分のキャリアを会社に全面的に委ねると。それで、入社してから自分が営業やるのか、管理部門やるのかとか、全部会社がキャリアを決めていくんですよね。異動を命じられれば言われた通りに動いていくみたいな。それに文句は言わない。言わない代わりに、何があってもクビを切らないみたいな、そういうような関係性があって、そんな中で法律、労働法を守っている会社って、一社たりともって言っていいくらい、なかったと思うんです、事実として。サービス残業なんか当たり前でしたし、過重労働なんか当たり前。

僕はよく言うんですけど一昔前の日本、働き方改革以前の日本って、労働法と道路交通法が、日本で一番守られていない法律だったのではないかと。道交法なんか分かりやすくて、僕49歳なんですけど、学生時代なんかは、シートベルトつけてる人なんか、ほとんどいなかったですね。それがある日突然、行政の方から信号ごとにシートベルト検問みたいなのをやられて、罰金を取られると。罰金を何回も取られるうちに、シートベルト付け出す、みたいな。これ、別に法律は変わってないですよね。元々、シートベルトはつけなきゃいけなかった。ただ習慣としてつけていなかった。つけなくとも罰則はなかった。だけどそれが行政指導が変わることによって、人々の意識が変わり、習慣が変わる。今、シートベルトつけていない人って、僕もシートベルトつけてますけど、ほぼ見ないじゃないですか。あるいは飲酒もそうです。飲酒運転も僕らが若いときって、若い方が聞いたらビックリすると思うんですけど、ちょっとくらいの飲酒であれば、ほとんどの人は運転してました。だけど罰則規定が変わったんですね。100万円という罰則ができて、それこそこの間、元モーニング娘も捕まってましたけど、もはや社会から抹殺されるんですよね。殺人罪くらいの扱いをされてしまうと。飲酒運転はもともとしたらダメだったんですよ。

だけどそういう罰則規定が変わったり、行政の指導が変われば、人々の習慣が変わる。で、日本はそういう終身雇用とか年功序列みたいなことをずーっとやってきたのが、ここに来て働き方改革で、一気に変わってきた。あと、転職者の急増といいますか、転職社会が到来してきてるのも、僕は一つ大きなファクターなんだろうと思うんですよ。だから、労働者の仕事を選択する自由っていうのが、法律だけでなくて、実際問題として転職への自由度合が上がっていってる、そして実際に転職している人の方が世の中で圧倒的なマジョリティになってきていると。

村田:…今のお話でいいですか。僕が証券取引所にいるときに、審査部のメンバーといろんな会社さんの事象について、どう評価するかっているミーティングを日々やっていくわけなんですけど、道路交通法って、やっぱり飲酒運転とかはやっぱり危害を加えられるので、本当にナンセンスだと思うんですよ。シートベルトも、カチってやるだけで命や健康が守られるわけだからすべきだと思うんですけど、私がよく言っていた道路交通法と労務の話で、ちょっと自分の中ではいい感じの例えなんじゃないかと思うのが、法定速度40キロの道ってそこら中にあるじゃないですか。

じゃあ皆さん40キロで走ってますかという話があって、60キロで流れていて安全なのであれば、1台1台処罰する必要はないと思うんですよね。結局、当時ですけど「角を矯めて牛を殺す」という言葉があって、ご存じの通り、曲がっている牛の角を真っすぐにしようとしているうちに牛自体が死んでしまうという例えですが、なんか、最近の世の中の完璧主義というか、潔癖主義というか、それはそれでちょっと、「角を矯めて牛を殺す」みたいにならないかなという危機感があります。

証券取引所の審査でいうと、一つの法律問題があるから、健全な事業をされていて実績がある会社さんも、上場ダメ!なんて言うつもりは毛頭ないので、取引所の中にも当然、『角を矯めて牛を殺す』というのは本末転倒だという意識が十分にあります。ルールを設けるときに、シートベルトのルールとか飲酒のルールとか、法定速度のルールとか皆さんの会社でも1つ1つあると思うんですよ。やっぱりそこで大事なのは、皆さんが経営として考えて、実務に落とし込んで、ワーカブルかどうかジャッジしながら「このルールは採用しよう」「このルールはやめとこう」「このルールはこう変えていこう」って、自社にカスタマイズしていくことが大事だと思います。そのときに当然、法律要件がありますから、法律でマストのことはやってくださいと。法律でマストでないことはまぁ、大阪弁でいうと「あんじょうやりましょ(=うまくやりましょう)」っていう話なんだなと思っています。

佐藤:その辺のところどうですか、森田さん。

上場審査で取り上げる人事労務の問題

森田:実は、ストレートに村田さんに、その審査の立場にいらっしゃったときに、どう判断されていたのか聞きたいなぁという項目がありまして、元々は人事労務の問題がIPO上で取り上げられたのは恐らく感覚的には15、6年前くらいからじゃないかなと思っていますが、そもそもどういう話なだったのかなと思っていてですね、管理監督者の範囲ですけれども、審査上話せる範囲で結構ですが、どんな風に判断されてるのかなぁと、ちょっと聞いてみたいなと思います。

村田:上場企業になるってことはやっぱり社会のお手本だという風に思ってますし、やっぱり社会の鏡だと思うんですよ。裁判に例えると、もちろん法律に基づいて判断されますし、過去の判例に基づいて判断されますし、最近ではまぁ、世の中がその事柄についてどう評価しているかっていうのも総合的に判断しているんじゃないですかね。なのでまず前段の話から言うと、労務の問題がクローズアップされたのは私の認識だと2006年頃だと思います。
この頃から労働法に対して社会の関心がたまり始めましたし、取引所に上場申請する会社のなかでも「利益の質」を判断する際に、社員が定着しないから継続性もないし、残業代払うと、そもそも赤字じゃないかみたいな事例が増えてきました。

また、後段の管理監督者をどう思うかっていうところは、僕も自分が審査部にいたらどうかなと思っていたんですけど、やっぱり、会社さんの業種・業態によると思います。割と中途採用が中心の会社さんで、みらいコンサルティングさんなんかはそうかもしれませんけど、経験豊富なコンサルタントの方が多くいるような会社さんだと、そんなにこう、三角形の組織にならないと思うので、マネジメント層がたくさんいて、スタッフが補助してるみたいな構図で説明されていると特に私は違和感を持たないんじゃないかなと思いましたし、逆に、いわゆる三角形の組織っぽい前提でお話を伺ったときに、残業代を削る目的でいろんな制度を導入されていらっしゃるんだとすると、それは趣旨がまぁ健全じゃないかなぁという観点で一応、お考えを聞くんだろうなぁとは思いますけど、それもやっぱりケースバイケースなので、冒頭言いましたように、会社って人の集まりに過ぎませんから、あまりこう断定的に綺麗に仕分けできないのではないでしょうか。森田さんが仰ってる問題意識は分かります。

森田:ありがとうございます。審査する側でも難しい問題ということですよね。

村田:まぁケースバイケースになるかなと。

森田:ありがとうございます。

「働くのが好き」という気持ちと残業時間の制限

佐藤:川本さん、その辺のところどうですか?例えば僕、実は商社マンを20代のときにやっておりまして、今、実はこういうコンプライアンス対応とかの仕事をしているんですけど、僕自身はサラリーマン時代、だいたい月間で500時間、労働時間を切ることはなかったと思います。だいたい500~600時間で、僕の定時は朝8時から朝4時だったんですね(笑)。で、土日はフル出社してましたし、まぁ、正月も僕は海外40か国くらい商売してたんで、どっかは開いてるんですよ。24時間、時差で。で、クリスマス休暇を長期で取る国だと逆に年末年始は31日と1日クローズしているくらいで、それ以外はオープンしているみたいなところも多かったんで、あとインターネットがなかった時代なんですね、僕が若い頃って。

だから、オフィスにいないとグローバルに仕事ができなくて、長く働くことが競争優位の原点になりえた、言ってみれば楽な時代だったんです。だから他の商社の定時で働いてるときにオーバーナイトで働いていれば、1日でやり取りしてネゴシエーションして、翌朝には提案ができると、こういうのが競争優位になりえたんですね。で、会社からは60時間、残業を越えると人事から始末書を書かされるんですね。それはめんどくさいからタイムカードをガチャンと押して、どうせサービス残業をしてましたので、ひたすら働くと。それはまさに、自分のために仕事をしてたんですよね。川本さんも入社4年で特にこういう商品・サービスを売っている会社、そしてそういう組織を増やせる会社の若手の一員として、何かそういう、僕たぶん、同じ年にこういうコンプライアンスの話なんて聞いたら、「いや、『帰れ』って言われるくらいだと俺この会社辞めるわ。働かせろよボケェ」って言うとたぶん思うんです。川本さんどうですか?

川本:僕も完全にそうですね。平成生まれなんですけど(笑)、令和になりますが、僕は「昭和」ってよく言われて、僕はメチャメチャ働くのが好きですし、うるせぇって言いたがるんですけど、言ってる人の気持ちも、もちろん同じチームとして分かるんで、そこはまぁ話し合いですよね。なんで妥協点を探すとすると、「じゃあオフィスにいてもいいけど、22時以降に関しては自己研鑽をしていると誇りを持って誰にでも言えるのであればいいよ」みたいなところで、じゃあそうしましょうみたいな感じで、調整したりっていうのはありますけど(笑)。そういうのはあります。なんですけどその本来の目的があると思うんで、それに対してお互いの思ってるところの話をして、着地していくって感じですかね。

村田:アトラエさんに興味が湧いてしまったんですけど(笑)、「数少ないルール」って、どんなものがあるんですか?

川本:「道徳・倫理に反さない」っていうことですかね、一番は。

村田:私、証券取引所というホント堅い組織にいましたし、ルールを作る方の立場にいましたし、冒頭あった、伸びる会社とか伸びない会社とか、強い会社とか強くない会社といったときに、僕はルール設定がすごく大事だなぁと思うんです。いい例か分かりませんけど…、例えば僕ら4人が共同生活しているときに、会社も生活に近いと思うんですけど、日々いろんなことが起こりますよね。鍵をどうするかとか、電気はつけっぱなしにしたらダメとか、ごみの処理どうするかとか、消灯どうするとか、いろんなことが起こる中で、会社もやっぱりルールが細かく設定されていて、阿吽で動けるチームは強いなと思うんですけど、ルール設定が甘い会社さんとかルールはあるけど浸透していない会社さんって、なんかこう、ピリッとしないというか…。

例えば利益計画の数字があったときに、全社員が本気で達成しようと思っている会社さんは達成に近づくと思うんですけど、利益計画の数字はあるけど、社長は本気だけれど社長以外は言ってるだけみたいな会社さんもあって、せやからルール設定として、利益計画を守らなきゃいけないっていうルールとか、握りが甘いと思うんですよ。僕が質問したのはどちらかというと「ルールが数多く徹底されている会社さんの方が強いんじゃないかなぁ。なぜならばバラバラの人間の集まりでしかない組織だから」というイメージが強かったんですけど…。衝撃だったんですよ、ルールが少ない会社さんがあるというのは。

川本:それで言うと、我々は定性的なルールっていうのはあるのかもしれないですね。なので誇れないことはない…

村田:出社時間とかないんですか?

川本:あ、ないです。出社時間…

村田:でも就業規則で決めないといけないですよね?

川本:それはあると思います。あ、ごめんなさい、「ないです」は撤回してもらっていいですか(笑)?あります。あるはずです。

村田:お昼休みとかは自由に各自とかなんですか?

川本:自由ですね。そうですね…何時にとっても何時間とってもOKですし、基本的にはその人が一番パフォーマンスを出せるように。それに対して、もちろんチームで動いてるんで、チームの合意というか、道理に反しなければ何でもOKというような感じで、なので下のラインで行くと「道徳・倫理に反さない」、で、もう少し上のラインで行くと「誇れるかどうか」。誇れるかっていうのは、本当に心の底から言えるか、みたいなところをジャッジ基準として置いてるんですね。それがルールかもしれないです。で、そこから色々なプロジェクトをやっていくにあたって、こういうことを目指して大事にしていこうみたいな、規律みたいなものが、もしかするとあるかもしれないので、同じような話をしているのかもしれないです。なので定性が合ってない段階でルールをいっぱい作っても意味がないと思っているので、まずはそこをすごくこだわって、僕らの場合はやっているという形ですね。

10年後のエンゲージメントはどうなっているか

佐藤:先ほど、川本さんの講義の最後の方で、「エンゲージメントは年齢と勤続年数によって下がっていく傾向がある」みたいな話がありましたけど、例えば川本さんはご自身が入社4年目じゃないですか。10年目どうなってると思いますか?

川本:…いやもう、100点満点で言うと、250点は行ってるんじゃないかと思いますけど。全然下がらないと思いますね。

佐藤:なるほどね。もっと突き抜けるぞと。

川本:たぶん下がってる要因が会社にあるっていう風に解釈しないと思います。下がっているのは結局、この会社というところから独立して別にあるんだとすると、できないことがあった場合はそれが自分のせいだと思うので、別に会社が云々とかっていう話にはならないと思います。なんでエンゲージメント自体は下がらないんじゃないかっていう風に思いますね。

佐藤:なるほどね。すべてやっぱり主体的に物事を考えるっていうところが浸透してるということですよね。

川本:そうですね。基本的に新卒で入ってくるんで、今までの感覚を引っ張って、例えば「こんなルールおかしいよ」みたいな発言をした瞬間に「じゃあお前がルール変えろよ」みたいな声がワーッと巡るんで、「え?」みたいな感じになるんで、そういう経験を日々やっている中で鍛えられるって意味ではそうかもしれないですね。なので評価制度自体も360度評価になったのは実は数年前の話で、これは「評価制度おかしい」と声をあげたメンバーがいて、「評価制度を変えた方が、次の組織のフェーズにおいては正しいと思う」って話で、属人的だったものをいわゆる360度評価に変えていったっていうのが決まってたりするんで、「おかしいと思えば変えればいい」みたいな感じでやっています。

佐藤:アトラエさんて社員の数は今40くらいでしたっけ?

川本:4月で8人新卒が入って56人ですね。

上場審査側からみた長時間労働

佐藤:まぁその56人の時価総額、先ほど聞いたら400億くらいの時価総額を出していらっしゃる会社さんなんですよね。どうですかね、僕も600社くらいの人事を見させてもらって、僕ら労務寄りの仕事をさせてもらってるので、僕は極めて稀なケースなのかなと。あと、人数も結構あると思うんですよね。例えばそれが1000人とか2000人の規模になったときに、その状態が担保できてるとするならば素晴らしいなと。

あるいは担保できている会社もあると思うんですけど、例えばアメリカのGoogleとか素晴らしい会社だと思うんですけど、本とか見ている限り、Googleなんかだと、新卒の給料が例えば1200万スタートみたいな、極めて高い給与水準にあると。それこそハーバードとかスタンフォードとかの奴らがうじゃうじゃいて、で、そもそも論としてそういう人たちの意識の高さとか、見てるものの違いとか、そもそも管理をしなければ働かないという連中ではなく、義務感で働いているというよりは自分の可能性をいかに深めていくかみたいな、その前提で。

で、そうでない人間はエントリーマネジメントの段階できちっとはじける、はじけるだけのエントリー数があるかとか、そういうのも結構あると思うんですよね。アトラエさんの場合だったら商品そのものがそういうことを取り組まれてるので、そういうものに共感した人たちの集団が作りやすい。逆に言えば、そこに共感していない人はたぶんエントリーマネジメントの段階で全部はねられてると思うんですよね。逆に森田さんにお聞きしたいのが、山ほどそっち側の世界で、さっきの奴隷扱いする会社さんみたいな、そういうのも見てこられてると思うんですけど、そっち側の視点から何かコメントありますでしょうか。

森田:…そっち側ですか(笑)

佐藤:たぶん、みらいコンサルティングさんとかも時と場合によっては深夜労働とかされてると思うんですよね。

森田:そうですね。みらいコンサルティンググループは200名くらいの経営コンサルティングのグループなので、昔は確かに寝袋を後ろにおいてるスタッフもいましたけど、今はさすがにそういうのはないですね。やっぱり意識も変わってますし、そこはシステムを入れるとか、そもそも経営トップの考え方が大きく変わったというのはあるかもしれないですね。長く働くのが当たり前だったというのが、私たちのグループでももう終わっていて、そこはないんです。

今、川本さんの話を聞いてて、例えばそういう自由な働き方を、じゃあ労務的な観点で問題ない形にできるかっていうと、できるんですね。ですからこれは経営層がOKを出してくれれば、今みたいな働き方を就業規則とかルールとしてきちんと落とし込んで、運用できますかと言われればできます。でも大抵は経営者が嫌がるんですよ、それって。そんなに自由にさせたら、さっきの性悪説ですね。「そんなに自由にさせたら、こいつら遊ぶだろう」と。

そういう経営者が多いので、やっぱりあまり実現していないんですけど、それは経営者がOKと言って、要するに性善説でルールを作ってくれれば、そういうこともできます。恐らく自由と自律、よく私たちの会社でも言いますけど、「自由は与えるけど、自分で律しなさい」と。それができてないと、それこそ自由なだけで遊んでるやつになってしまうので、そこの自律の意識をたぶん、研修とかで結構植え付けられるんじゃないかなぁという気がします。

川本:うちの代表は新居というんですけど、ひとつ僕の少ないキャリアの中で思い出すと、「労基署から問い合わせがあれば、アトラエの働き方を納得してもらうまで説明するつもりだ」って言ってたんで、切り方によってはすごいヤバい会社なんですけど(笑)、そのシーンにおいては、僕らの働き方とか体現しているものを潰さない方向で上場っていうものを考えてるし、「上場もこういう目的があって考えてるんだよっていうのを伝えた上で、それでも周りがウジウジ言ってくるなら俺も死ぬ気で戦うよ」って言ってくれたのが僕がカッコいいなと思ったシーンだったっていうのはあります。

佐藤:村田さんはどうですか?その、向こう側からこっちに移られて、その時に僕も村田さんとはいろいろ話をしたんですけど、なかなかできないですよ、村田さんは史上最年少で証券取引所の(役員に就任されて)…要はエスタブリッシュなわけですよ。辞めるって言わない限りは辞めることなくずーっと役員をやるわけですよね。そういう地位とか、そういうものを全部捨ててまでこっちに来たと。何を思われたのかって、僕は何度も聞いてはいるんんですけど。

村田:IPOセミナーとは趣旨が脱線するかも分からないんですけど、さっきも申し上げた通り、やっぱり上場って素晴らしいと思うんですよね。アスリートがプロ目指すとか、オリンピック選手を目指すように、経営者も基本的に会社を作った瞬間、全員が全員アスリートでなくてもいいのかもしれませんけど、やっぱり世の中を変革するとか、業界を牽引するリーダーは上場っていう舞台に立った方が絶対に存在感もできることも増えると思ってるんで、上場は素晴らしいと日々思ってました。

で、一方でどうしても組織の制約というか、証券取引所って公的な存在なので、一個人でブレーキ踏まざるを得ないときとか、深い関わりより平静を尊重しなければならない企業文化とか、もちろんそのルールもあったので、そこに若干モヤモヤ感を感じたところですかね。今はそういう意味ではフリーにやっているので、かなりわがままに活動もできますし、情報の非対称性がやっぱり大きい分野だなぁというところには課題意識を持っていて、それは私一人では解決できませんから、今日でいうと森田さんみたいな専門家がおられて、情報の非対称性を埋めていくようなことをもっともっとしないと、上場の都市伝説みたいなことがこんなに多いのかと、ものすごい実感しましたね。

上場申請にまつわる都市伝説

佐藤:例えばさっき森田さんが「アトラエさんみたいな働き方をやっている会社をしっかりとルール化して運用していくことは可能ですよ」とお話されていたんですけれども、そういう意味で例えば人事に絡む都市伝説で、証券取引所から見て「そんなことないよ」っていうものってありますか?

村田:本当にケースバイケースなので、断片的にお伝えするのはミスリードになってしまうと申し訳ないなって思いつつ、最近思ったのは僕が関わってる会社さんで、組織変更をしようとされていて、それがいわゆる申請期だったんですよね。

例えば3月決算で、今年12月頃に証券取引所に上場申請しようとしている会社さんが5月~6月に組織変更を考えていて、僕はお話を聞いたときに当然、ビジネスが変わってきているので、必要な組織変更だと思ったんですけど、とある証券会社によると、「上場申請期での組織変更は認められません」みたいな話になって、それはじゃあ証券会社の意見なのか証券取引所の意見なのかみたいなことでまたモヤモヤとなって。そんなルールないしね。要は「その動機が健全なのかどうか」ってところに尽きるので、不毛だなぁというか、そういう伝説まがいがたくさんあるんだなって、ちょっと前に組織関係で思いましたね。

佐藤:例えば証券会社さんとかが、後々めんどくさいことにならないようにとか、証券会社さんにも優先順位ってあるじゃないですか。やっぱり気持ちとして上場させたくないから、それを上手いこと言って、例えば僕の友達もIPO準備してますけど「36協定違反が一人でもおったら上場できへん」って言われてるみたいなことって、それって正しいんですか?

村田:うーん…本当にケースによるんで、今の会社さんですごく人の定着率が悪いとか、いわゆるブラック企業系の会社さんで、証券会社さんが経営的な意味でそういうことを仰ったんであればそれは妥当な指導だと思いますし、ケースによるんで本当にコメントが難しいんですけど、でも労務に関して言うと、労働基準監督署の改善事項は審査では絶対チェックしますので、改善指摘があればそれは対応しておいてくださいねってことなんですけど、逆に労働法の管理監督機関ではないので、労基署みたいにものすごく細かく踏み込んで、労務ばっかり深堀りするかっていうと決してそんなことはなく、やっぱり上場審査って会社の成り立ちに始まり、「過去どういう変遷で今日まで来られましたか」とか、「どういう事業されてますか」「強みは」「どういう業界構造ですか」「どういう財務構造になってますか」「どういう計画ですか」っていう一連の流れの中でところどころ関連法が出てくるので、それを確認しているっていうプロセスなので、法律は当然守らないといけないんですけど、未払い残業が一人でもあったら上場させませんっていうところまで、「角を矯めて牛を殺す」ようなスタンスではやっていないです、と僕は理解していますね。

佐藤:あくまでも総合的に見られているということですね。

村田:そうですね。

佐藤:例えば「総合的に判断する」の「総合的」の要因、例えば労働時間とかもそうだし、未払い残業してるかもそうだと思いますけど、森田さんが今日いくつかのポイントっていうのをお話されたと思うんですけど、例えば離職率でビジネスの継続性なんかを見られてるように、それ以外に何かこういうところを総合的に判断する上で重要だなという風に思われてる要因ってどういったところなんですか?

村田:うーん…。よく、経営の4要素って言うじゃないですか。そういう意味で言うと、労働力というのをいかに調達して、いかにうまく活用している会社さんなのかなっていうのがあくまで入り口なので、それができている限りは事業が継続して伸びていくっていう風に解釈しますから、まず「採用に困ってる」とか「人が定着しない」ってことからすると、今の事業が拡大する上で大きな経営上の資源を調達できなくなるわけですから、そういうのは当然厳しめに見ますし、逆に取りたい人材が取れていて、定着率もあって、教育研修システムもあって、うまく成長していっているのであれば、このサイクルで事業がどんどん伸びていくんだなっていう風になっていくんで、まぁ全ては利益計画に行きつくのかもわかりませんね。

この利益計画を達成するための条件として資金はありますか、人はいますか、必要な経営の情報は得られていますか、っていう風に解釈していくので。ただ、そのときに「法律守れてません」って言われると、「いやいや、オリンピック選手になったらダメですよね」と。まぁドーピングは論外だけど、何ですかね、ちょっと、スポーツで軽微なルール違反って分かんないですけど。まぁドーピングってたぶん粉飾決算みたいなものだとすると…。

森田:競歩…?あれ、(足が)浮いちゃいけませんよね。

村田:あ~そういう感じですかね。

森田:ギリギリ浮いても、審判にばれないところでやってますよね。

村田:フォームにムラがある選手とか(笑)。

佐藤:ちょっと意地悪な質問をさせてもらうんですけど、たぶん村田さんから見てすごい商品・サービスで、これは世の中のためにすごくよくなるねと。従業員もいきいきと働いてると。だけど労働法で違反があって…という会社と、労働法はしっかり守っている、でも商品・サービスはいまいちだよねと。で、社員も疲弊しているみたいな。極論なんで答えにくいと思うんですけど、この場合どっちの方がいいんですか?

村田:どっちかと言われれば証券取引所の立場で言うと、事業の成長性は高くないかもしれないけど、ちゃんとルールを守れている会社を上場承認するのが役割だと思っていて、投資家ってやっぱり、事業が伸びる会社さんに興味あるじゃないですか。少々、微妙なことをやっていても利益が毎年倍々で伸びていくっていう会社さんって、やっぱり残念ながらというか、資本市場のメカニズムでは高い評価を受けると思うんですよね。「毎年5%しか成長しません。その代わりいわゆる超ホワイト企業です」って言っても、投資家からはあまり評価されないと思うんですけど、やっぱり証券取引所って公的な器なので、真に社会性があるというか、会社さんを出していくのがミッションなんじゃないですかね。まぁちょっと極端な例なので、ミスリードしてしまうかもわかりませんけど、2択と言われれば地味で真面目な会社さんだと僕は思ってますね。

上場したためにマイナスの影響が出てしまったケース

佐藤:森田さんも数多くのIPOの支援なんかをされてると思うんですけど、その立場から、すごくいい会社なんだけど、業務監査の私見から見るとちょっとグダグダで、例えばIPOをやることによってその組織が死んでしまうとか、すごくいい会社なのにIPOに取り組むことによってマイナスの影響が出てしまったとか、逆にそうした影響がでてしまうから上場はしない方がいいんじゃないかとか、そういうケースは実際にありますか?

森田:やっぱりベンチャー企業のお客様の紹介も多いんですね。そうするとやっぱり、先ほどの川本さんの話じゃないですけど、皆さんやっぱり従業員が若くて、すごい仕事したいんですよ。でも、36協定があるから月45時間の残業で抑えてください、なんていうのは越えてても、仕事をやりたい人が多いんですよね。でもルールは作らないといけないという状況で、個人的に上場しない方がいいんじゃないかなと思うケースはあります。ただやっぱり証券会社さんからご紹介頂いたりしてる中で、私がそれを言うわけにはいかないので、それは口が裂けても言えませんけども…。

村田:ちょっとよろしいですか。何か今のとか、「上場すると法律守らないといけないけど、上場しないと法律守らないでもいいですよね」って聞こえてしまうところはどう解釈すればいいんでしょう(笑)

森田:今、そのステージじゃないのかなと言った方が正解ですかね。企業の成長って法律守りながら成長するのが一番なんですけど、現実問題、それは良いか悪いかで言えば悪いです。法律違反の状態で企業が成長していって、あるとき上場を目指すなんていうのが、大体一般的に私が出会う会社さんなので、先に事業を伸ばす方じゃないですかねっていうタイミングのときがあるということですね。逆に言うと紹介されて知ってしまった以上、「これはOKです」とは言えないんですよね。だから指摘をせざるを得ない。だから出会いたくなかったかなと思うことはありますね、正直。でも確かに、ベンチャーの経営者の方にその話はします。どうしても越えなきゃいけないハードルはありますよと。それを超えるということはルールを作るということになるので、ある意味アトラエさんすごいなと思いましたけれども、若干この勢いにブレーキをかけることもあり得ますというのは最初にお話します。

佐藤:川本さん、どうですか?逆に、今日はこういう衛生要因的な話も色々と聞かれてたと思うんですけれども、エンゲージメントの項目の中で、職場環境でしたっけ、家でも仕事してたりして、労働時間がバーンと上がっちゃうと下がるスコアがあるじゃないですか。そこのスコアが下がっても、全体のエンゲージメントスコアは上がってるとか、そういうデータもあるんですか?

川本:そういうこともございますね。逆もまた然りですけれども、そうですね。あとエンゲージメントっていうのは生モノっていうのもあるので、データをとるときによっても全然変わりますし…イメージは体重計とか、体組成計と思って頂ければなと思うんですけれど。それもしかも、人とか、組織体によっても全然違いますし、切り口によっても全然違うんで、一概には言えないっていう形ですね。

佐藤:さっき事前の打ち合わせしたときに、この御三方に話をしたんですけど、つい最近なんですけどある一部上場会社の社長さんとお話する機会があってですね、もう働き方改革やということで、それまではバンバン働いて、休みもあまり取らずガンガン働いてたと。その結果としてほんの数年前まで離職率40%とか、高い離職率になったんですって。それは何とかせなっちゅうことで、月の残業で20を超えてる人は0になってると。で、有給の消化率はほぼ100%で、社長自ら1か月間の長期休暇を取って海外旅行を楽しむとか、そういう取り組みをした結果、今、離職率が3%を切ってるみたいなんですよね。

あと新規採用については、リファラル採用ですね、社員からの紹介で採用の半分以上が入ってくる。で、極めて従業員満足度が高い状態になったみたいなんですよね。でも、その結果として何が起こってるかというと、社員は辞めないんですよ。辞めないにも関わらず、業績が落ちていってると。その原因を色々調べていったら、結局リファラル採用するときに、社員たちが「うちの会社は残業ないからいいよ」とか「休暇は取り放題だよ」とか、そういう部分を強調して、それに惹かれてくる社員が圧倒的に多かったと。だから結果として仕事に対しての気概とかやりがいとか、会社のビジョンとか、そういうものに惹かれて入ってくる社員というのが少なくなっちゃったと。

その結果が今のこういう現状にあるんじゃなかろうかということで、また今、そこの新たな取り組みを始められてるというようなことはちょっとお聞きしたんですけど、そうですね川本さん、今の話を聞いてどう思われます?ちなみにそこはリンモチ(=株式会社リンクアンドモチベーション)のモチベーションクラウド使ってます(笑)。

川本:ちょっと答えづらくもなってくるんですけど、そうですね、まぁそれは組織の状態としてはひとついいのかなとは思うんですけど、例えばじゃあ離職率の40%が3%に下がったところで、残りの37%が将来的に戻ってくる組織なのかだったり、まぁ最近だと「出戻り」みたいな言葉もよく流行ってますけど、そういう組織であり続けられるのかなというのは大事かなと思っていて、浮き沈みはあると思いますし、集中してるタイミングじゃないタイミングも当然生モノなんであると思うんですけど、そういう状態であるんだったらいいなと思いますし、そうじゃないんだったら何かを変えていく必要はあるかなと思うので、離職率っていうのは非常に難しくて、それだけで見えないものがいっぱいあると思うので、なんかその中心に確固たるものだったり、信念ってものがある集合体だったらいいのかなと思います。なんで是非リンモチさんを使ってそうして頂ければと思いますけど(笑)。

佐藤:ありがとうございます。もうそろそろ時間になりますので最後に、30秒くらいで皆様に一言ずつ頂ければと思います。じゃあ川本さんからお願いします。

川本:アトラエはですね、いつでも遊びに来て頂いて構わないオフィスですので、宜しければご連絡頂ければ、色々詳しい話もさせて頂きます。本日はありがとうございました。

森田:今日はありがとうございました。私は社労士という立場でさっきのような発言をしていたんですけれども、あまり悪徳社労士みたいな見方をされてしまうと困るんですけれども(笑)、個人的な気持ちです。気持ち的にはそういう思いがあって、経営のご支援がしたいので、軽度問題ですね。40キロ道路を50キロくらいで走ってる、この法律違反をどう見るか、くらいの感覚で聞いて頂ければと思います。どうもありがとうございました。

村田:私が上場って素晴らしいなぁと思い続けている一人なので、そういう立場からするとここにご参加されているのもですね、会社でIPOということにチャレンジしようという計画だったり資金がある会社さんだと思うので、世の中全体で見たときに、皆さんってやっぱりレアなポジションにおられると思うんですよね。まぁ上場した会社に就職して一生を終えるのも素晴らしいかもわかりませんし、上場と無縁で仕事される方もいらっしゃるのかもわかりませんけど、私個人の人生のストーリーで言うと、上場してないときに会社に入って、自分が一生を終えるときに立派な上場会社になってると嬉しいんじゃないかなと思うので、すごくいいポジションにおられるんだなぁということは是非、ご認識頂いて、誇りを持って頂ければいいなと思います。どうもありがとうございました。

佐藤:では時間が参りましたので、これにてパネルディスカッションを終了とさせて頂きます。本日はどうもありがとうございました。